はじまりは焼肉弁当
「お弁当シリーズ」第二弾です。よろしくお願いします。
親友が結婚した。
この会社に入社して以来、時には叱咤し時には励ましあった彼女が結婚した。しかも社内恋愛で。その上「お弁当交換」などという心温まる交際の末に。
-そんな初心な恋愛、本当にしてる人がいるんだ。
傍から見ても心がくすぐられるような二人だった。今までの自分の恋愛遍歴を思い返してみれば、羨ましくなるほどの恋だと思う。なんていうか、必然的に惹かれあった二人とでも言えばいいのか。
彼女から「どうすればいいと思う?」なんて可愛い相談をされたこともあった。なぜか強気でああしろこうしろ言ってしまったが、素直な彼女はそんなアドバイスすら真面目に聞いてくれた。きっとヤツ(彼女の旦那)もそんな初々しいところにやられたに違いない。
結局何が言いたいかと言えば、私は羨ましいのだ。お互いが唯一の人だと言い切れるあの二人が。
そして外ではサバサバした女という印象を与えているが、実際はどこにでもいる夢見がちな女である私にも、いつかそんな人が現れるのだろうかと期待しているのだ。
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長岡紗代子、二十六歳。都内にある中企業で働く普通の女子。只今社員食堂で日替わり定食をおいしく頂いている。
そして目の前に座ってお弁当を食べているのは、西森まどか改め相田まどか。私の大切な友人である。付け加えると、彼女の隣には旦那であるあいつも座っている。なぜ私があいつの名前を出さないかというと、名前を出すのも嫌なくらい苦手な奴だからだ。苦手を通り越して嫌いの領域に片足突っ込んだくらいかもしれない。同期という範囲のみの付き合いの時は、無愛想だけどそこそこ格好いい人という印象だったが、まどかと結婚してからはその嫉妬心をあまり隠さなくなったので、もろに私に被害が来ているのだ。結婚前は半月に一度はあったまどかと私の女子会と言う名のオアシスは、こいつの「心配だから俺の目の届く範囲じゃないと嫌」という「お願い」に見せかけた独占欲のせいで三ヶ月に一回程度+同期会のみとなってしまった。本当に残念な男だと思う。
しかしこの相田夫妻、社内では密かに名物夫婦となっている。なにしろ「お弁当交換」で愛を育んだという純な交際歴をお持ちなのだ。その馴れ初めがじわじわと社内で浸透し、今我が社は空前の弁当ブームを迎えている。
といっても、なにも全員が弁当を持ってきているわけではない。数は少ないが社内恋愛している人はこっそり交換し、片思いの相手がいる人はさりげないアプローチとして利用している。そんな感じだ。長年連れ添ったご主人へのお弁当作りを再開した、というこれはこれでほっこりする話も聞くが。
結婚してからは二人揃って社食でお弁当を食べるようになった相田夫妻と一緒にお昼をするのが最近の私だったが、今日はもう一人いる。
私の隣に座る二年後輩の堀田英治だ。そして、どうやら先程説明した「お弁当でアプローチ」して玉砕したらしい。
「相田先輩が言うから俺頑張ったんですよ。料理なんてやったことないから、初めてお湯沸かすのと米炊くのとレンジ以外の作業やりましたよ。…なのに丸々突っ返されるとか、何が悪かったんすかねぇ。」
聞けばこの堀田君、まどかの旦那の大学の後輩らしい。しかも体育会系の部活も同じだったとか。部内での上下関係は社会人になっても健在らしく、彼は盲目的にあいつに従順だ。可哀想に。
そんな彼は昨日、以前から気になっていた女性にお弁当を渡したらしい。その場では嬉しそうに受け取ってくれたため「これは上手くいくんじゃないか」と希望を持っていたところ、退社時にお弁当を返され、しかも中身は一口も手をつけていなかったそう。その上「堀田さんが私のことどう思っているのかはっきり分かりました!」と怒られたとか。…哀れな奴。
「お前…一体どんな弁当渡したらそんなことになるんだよ。」
悔しいが今はあいつの意見に同意。流石のあいつも同情を隠しきれないようだ。
「えー、普通の弁当っすよ。西森さんが「自分がもらって嬉しいお弁当にすればいいよ。」ってアドバイスくれたんで、俺なりに一生懸命作ったんですけど。」
「それで結局、どんなお弁当なの?」
つい好奇心が抑えきれずに聞いてしまった私のバカ。
「もちろん焼肉弁当っす!!」
ああ、堀田君の満面の笑顔が眩しい。
他連載が行き詰ったため、またも懲りずに新しいものを始めてしまいました…(;一_一)
今回の主人公は「ラプソディ」でまどかの相談役として登場した紗代さんです。まどか佑輔夫妻もちょくちょく登場します。どうぞよろしくお願いします♪
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