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和解

「……聞いてもいいのか分からないけど。とりあえず、一体何があったのかな?」

「いえ、俺にも何が何だか」


 阿久津がべったりと草間にしがみ付く格好で、二人は事務所に戻ってきた。驚きの光景に、初見と香坂はこれでもかと言うほどに目を丸くしていた。

 捕まえてきた猫は檻に入れて、草間が両手で持っていた。流石に重くて腕が疲れたので、猫をそっと床に下ろす。


「とりあえず、これが例の迷い猫です。明日にでも俺が届けに行きます」

「あ、ああ。お疲れ様」

「ねね、あーちゃん。どうしてくーちゃんとそんなに仲良しになったんですかー?」


 興味津々に香坂は阿久津に語りかける。すると、なぜか阿久津は恥ずかしそうに、顔を真っ赤に上気させた。それを見た二人が、あらぬ方向に想像を巡らす。


「く、草間! まさか……!」

「くーちゃん! そんな方法で仲良くなろうなんて、見損ないましたよ!」

「勘違いだ! 阿久津さんも何でそんな反応をするんだ!」


 草間は大慌てで否定するが、そのうろたえぶりが余計に事の信憑性を上げてしまったようだ。二人の草間を見る目つきが、みるみる冷たくなっていく。

 その時、阿久津が小さくて招きして香坂を呼んだ。


「どうしたんですか、あーちゃん?」


 香坂が阿久津の口元に耳を近づける。ふんふんと香坂は頷き、しかし何を言っているか分からないとでもいうように、首を大きくかしげた。


「……ん、んんん?」

「香坂、阿久津は何て言ってるの?」

「えっと、くーちゃんが初めて笑ってくれたのが嬉しかったって」

「え? いや、確かに俺は笑う事が少ないとは思うが、それでも初めて会った時とか、阿久津さんに笑いかけたぞ?」


 阿久津がこの事務所を初めて訪れた時、確か香坂は初見に事務所の中に連れ込まれ、草間と阿久津が二人っきりになった。その時、中へどうぞと笑いかけたら、阿久津は怖いものを見たかのように、事務所の中へ逃げてしまったのだ。


「あ、そうか。なるほどね。何となく分かったわ」

「ほんとですか、はーさん!」

「阿久津はね、草間の営業スマイルが怖かったの。まあ気持ちは分かるね。あれは気色悪い」

「なるほど! それじゃ仕方ないですねー」


 二人してさも納得と、何度も感慨深げに頷いた。


「……そんなに気色悪いですか、俺の笑いって?」


 情け容赦ない言葉がぐっさりと刺さった胸を押さえて、草間は息も絶え絶えに聞いた。今まで生きてきた中で、一番きつい言葉だったかもしれない。

 へこたれた草間の姿を見て、初見がクスクスと笑って軽く背中を叩いた。


「あはは、ごめんごめん。ちょっと言い過ぎたね。阿久津はね、作り笑いとかそういうのは駄目なのよ。生半可に取り繕ったって、すぐに見破られるわ」

「へー、すごい特技ですねー。でも、どうしてそんな特技が、あーちゃんに身に付いたんでしょう?」

「……まあ、それは追々とね」


 香坂の問い掛けに、初見の表情が僅かに曇った。草間や香坂は気付いていなかったが、阿久津もまた、苦汁を舐めた表情をしていた。

 ほんの少し沈黙が流れたが、空気などどこ吹く風の香坂が、あっさりとそんな沈黙を吹き飛ばした。


「あーちゃんもくーちゃんに懐いてくれたし、これでみんな仲良しですねー」

「そうね。ようやく肩の荷が下りたわ」

「はあ、すみません。心配をかけました」


 自分と阿久津の関係がそれほど心配をかけていたとは知らず、申し訳なくなって草間は二人に深々と頭を下げた。


「ねえねえ、記念にみんなで写真撮りませんか?」

「いいねえ。確か、年代物のポラロイドがあったはず……」

「俺は写真苦手なんで……あ、香坂! しがみ付くんじゃない!」

「はーさん早く早く! くーちゃんが逃げちゃいますよー!」

「ちょっと待ってね、タイマーが……と、よし!」

『ピース!』


 てんやわんやな状態で撮られた写真は、香坂と阿久津が草間に抱き付いて、当の本人は顔を真っ赤にし、その後ろで初見が豪快に笑ってピースをするという、とても和やかなものとなった。

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