表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/32

07 義父さんの家 

「ライラや、引き受けてやりなさい」


 義父(とう)さんがテーブルにお茶を置きながら言った。


「やだよ」


「お茶をかたじけない、マグヌス殿」


 結局マックスとあたしは義父(とう)さんの家まで来てしまい、今は三人でお茶を飲んでいる。

 義父(とう)さんが栽培したハーブティー。

 ほんのり香るエキナセアが懐かしい。

 子供の頃から秋になると、義父(とう)さんはよくこの花の乾燥したものをお茶に入れてたっけ。


 でも、懐かしさなんかで(ほだ)されるあたしではない。


義父(とう)さん、この人の依頼の内容、知ってて言ってるの? なんか()()()()()()なこと、言ってるんだけど」


「その()()()()()()なところに、私一人で行けというのか? 冷たいなあ」


「あんたが勝手に行きたがってるんじゃない! あたしを巻き込まないでよ!」


「……ライラや」


 義父(とう)さんはカップを両手で挟んで、お茶を一口すすった。

 指先を温めるために、いつもこうやってお茶を飲む。


「仮にも王子殿下に対して、その言い方はないだろう」


「…………は・あ?」


 なんか今、聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。


「『王子殿下』? このトンチキ野郎が?」


「『トンチキヤロー』か。なかなか小気味いい響きだね」


「ライラや。言ってるそばからひどいだろう。不敬罪で捕まっても知らんぞ」


 見事に三人とも好き勝手なことを話して、会話になっていない。

 いや、あたしと義父(とう)さんは一応会話しているか。

 自分のペースを貫いているのは、王子殿下疑惑(?)のあるマックスだけだ。


 しかし、このトンチキ野郎が王子様?

 ありえないでしょう!

 認めたくない!


 あたしは正面に座っているマックスをまじまじと見る。


 落ちたときにに木の枝でできた掻き傷は、さっき水で洗ってきれいにしたし、額のすり傷も前髪がかかって隠れていた。


 銀色の、触るとサラサラ音がしそうなロングヘアー。

 まるで明るい満月の夜の月光を髪の毛にしたみたい。


 それから瞳の色。

 まさに「アメジストの色」だ。

 子供の頃、義父(とう)さんに聞いた「真実の瞳」を持つ人の目のことを「アメジストのような紫色」って説明されたときは、「アメジスト」がなんなのかわかっていなかった。

 スミレとかベラドンナとか、紫色の花の色を思い浮かべて、「こんなもんだろう」と納得していたことを思い出す。


 田舎から王都に出てきて、メイン通りの宝石店でウインドウに飾られているネックレスを見て、初めて本物の「アメジスト」の色を知ったんだっけ。


 それに顔立ち。

 くやしいけど、整っている。

 トンチキ野郎にはもったいない顔だ。


「ま、でも王子様なら、そうか」


「なんのことだい?」


「いや、王様って自分の好みの美女をお妃にできるんでしょ? あんたの顔が整ってるのは、お母さんが美人なのかなって思ってさ」


 あたしがそう言うと同時に、なんだか妙な空気が部屋に流れた。


「……なに? あたし、なんか変なこと言った?」


「ライラや。国王陛下といえど、好きなようにお妃を選ぶことはできないんだよ」


「うん、国王の結婚はいわば政治だからね。特に正妃は、親とか宰相とか有力貴族とかが、政治的に都合のいい相手を子供のうちに決めてしまうんだ」


「ええー! だって昔話の王子様とか、ひとめぼれした村娘と結ばれたりするじゃないの!」


「ライラや。それはお伽話だよ」


 なんだかあたしは、自分が世間知らずのお子様だと言われたように感じて、拗ねた気分になる。


 そそくさと立ち上がって「夕飯の準備をしてくる」と義父(とう)さんに言った。

 するとマックスが間抜けなくらいに目を丸くする。


「夕飯の支度(したく)だって? まだ昼過ぎだよ。早すぎるんじゃないか?」


「はーん、王子様は森の暮らしをご存じないのね。ここでは、この時間から準備しないと、夕飯にありつけないのよ!」


「ライラや。パンなら昨日焼いたものがまだ残っている。チーズもあるから、とりあえず必要なのはスープくらいのもんだ。そんなに慌てて料理を始めなくても今日は大丈夫だよ」


 義父(とう)さんめ、余計なことを。

 席を外す口実がなくなっちゃったじゃない。

 まあでもパン作りは面倒だから、作らなくて済むならいいか。

 そう思いながら、あたしは再び椅子に腰かけた。


 +

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ