06 マクシミリアンの依頼
そんな、魔法の民を森から追い出した連中にしか見えない男が、あたしを探して、あたしの義父さんに魔術道具の作成を依頼して、更に言えば「真実の瞳」という魔法仲間しか知らない力を持っている……
「あんたって、ヘン! すごくヘン!」
「よく言われる。ありがとう」
「……普通そこでお礼を言う人は、いないと思うけど」
マックスの返事を聞いて、あたしはがっくりと肩を落とした。
やっぱり、こいつは変だ。
頭の中身が、かなり変。
「ねえ、あんた自分が『真実の瞳』を持ってるって、知ってるの?」
「ああ、君の父上に聞いたから知ってる」
「それっていつ?」
「うーん、一年くらい前かな」
「それまで、『真実の瞳』を持ってるって知らなかったの?」
「そもそも『真実の瞳』のことを知っている人が、私の周りにいなかったからね。ただ、自分でも『変なことが起こるな』とは、子供の頃から思っていた」
「……『変なこと』。そういうもんなの?」
――真実の瞳
その存在は魔法の民の間でだけ語り伝えられる、特殊な力のことだ。
その力を持つ者は紫色の瞳を持ち、力を発揮するときは右目が赤、左目が青い色に変わる。
さっき汽車の中で、マックスの瞳に表れたように。
その能力は文字通り「真実を見極める」ことだ。
つまりさっき、マックスはあたしの変装を見破るために、その力を発揮したってわけ?
「割としょうもないことに、『真実の瞳』の力を使うのね」
「そんなことはない。君を探すためには必要だったのだから」
「そうまでして、というか、そもそも一ヶ月もあたしを探し回っていたのって、なんで?」
よくよく考えてみると、自分の知らない間に、知らない男から一ヶ月も探し回られていたなんて、ちょっと気味が悪い。
「ふふふ……、知りたいかい?」
「それは、勿論」
「ふふふ……、まだ内緒だ!」
「なんで!」
思わず振り向いてマックスを見ると、奴はニコニコと屈託のない笑顔を返してくる。
怖い。やばい。気持ち悪い。
「わかった。もう理由は聞かないから、ついてこないで」
「しかし、私の行先も君と同じなのだ、ライラ。君の父上の家に行って、この羽を修理してもらわなければいけないのだから」
「……じゃあそれが終わったら、今後あたしをつけ回さないで。あたしを探したりしないで」
「しかし、用事が済むまでは、その要求も飲めない」
はあーーーー、と、あたしは嫌味ったらしく盛大に溜息をついた。
そしてマックスに右手の平をグイ! と差し出す。
「なんだ? これは」
「なにって、お金よ。依頼したいことがあるから、あたしを探してたんでしょ? そして、あたしは魔女。使える魔法は『未来を視ること』。……ってことは、あたしに未来を視て欲しいのよね? だったらカードなんかで誤魔化さずに、ちゃんと魔法で視てあげる。お代はそうね、十万ポネットでいいわ」
未来の透視を一回で、十万ポネット。
これはかなり、ふっかけた金額だ。
これだけあれば、今月の家賃と十日分くらいの食費になる。
もちろん、マックスが値切ってくるのを見越してのものだ。
(でも、いい服着てるから絶対金持ちだし、なんか浮世離れしてるし、もしかしたら引っ掛かってくれるかも?)
するとマックスはあたしが差し出した手を握り返し、ニコニコと握手をする。
え……、これって、商談成立ってこと?
マジ? やった!
マックスは満面の笑顔のまま言った。
「残念。未来を視て欲しいわけではないのだ」
「違うんかい!」
あたしは思い切りマックスの手を振りほどく。
なんだよ、期待させておいて!
「畜生、喜んで損した! ……じゃあ、あたしになにをさせるつもりなのさ?」
「わかった、きちんと打ち明けよう。私と一緒にキュウケツキを止めに行って欲しい」
「やなこった!」
あたしはマックスの言葉を、食い気味に遮った。
だって、そうだろう?
なんだってわざわざ吸血鬼なんかに会いに行かなきゃいけない?
血を吸われて、あたしまで吸血鬼になったりしたら、どうしてくれるんだ!
「もしかして、勘違いをしていないか? 私が言っているのは『吸血鬼』じゃなくて『吸血樹』。人を襲って、血を吸う樹のことだ」
「…………なに、それ」
思わず足が止まってしまった。
背中に、腕に、首筋にゾクゾクと悪寒が走る。
あたしの未来予知能力が、全力で警告を発していた。
これ、引き受けたら絶対だめな話だ!




