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05 森を出た魔女たち

 あたしは魔女。

 でも世間には自分が魔女であることを隠している。

 別に魔女だからって、取り締まられることはない。

 でも、世間から胡散臭い目でみられるから、隠している。


 ここアルテアン王国で、蒸気機関車が走り出し、工業化が進んで三十年が経とうとしていた。

 今は科学万能の時代なのだそうだ。

 魔法なんて時代遅れで、怪しいものと考えられるようになってしまった。


 昔は人間が移動しようとしたら、馬車か、馬か、はたまた徒歩か。

 そんな方法しかなかったのに、あの黒ーい煙を吐き出しながらシュッポシュッポと走る奴が創られたおかげで、人や物が移動する量が大量に増える。


 すると、それで大儲けする連中が現れた。

 どうやってそれで儲けられるのか、あたしは無学だからわからない。


 わからないけど、とにかくそれで儲かることがわかった人たちが、蒸気機関車がもっと走れるように線路をあちこちに延ばし始めた。


 線路が延びれば、それだけたくさんの機関車が走る。

 蒸気機関車は、火を燃やさないと走らない。

 火の燃料は、木だ。

 機関車が増えるたびにこの国の森の木が切り倒されて、しまいには「森」と呼べるほど樹木の生えた場所は殆どなくなっちまった。


 あたしら魔女(男なら魔術師)のご先祖さんたちは、代々森に住んでいた。

 魔法の民は、住処(すみか)を失ったのだ。


 あたしの養い親であるマグヌス義父(とう)さんはよく言っている。


 + + +


 古来、森は多くのものを育んできた。

 ウサギや鹿や狐やオオカミ。

 魔女に魔術師、ならず者。


 今や「文明の進歩」とやらに追い詰められ、世界の豊かさの象徴だった森はほぼ消えたが、だからといって森に住むものたちまでが消えてしまったとは限らない。

 動物たちはその数を激減させつつも、生き残っている。

 魔女や魔術師も姿を潜め、力を隠して生き延びてはいるが、やはり本来、森と共に生きる者。

 再び森で暮らせる日が来るよう、我々は手立てを考えなければいけない。


 + + +


 ……てな具合。


 マグヌス義父(とう)さんは、森の中で暮らしたことのある、最後の魔術師らしい。


 義父(とう)さんの年を聞いたことはないけど、見た感じだいたい四十歳くらいってところだ。

 魔女や魔術師が最後に森を出たのが、今から二十年くらい前だから、義父(とう)さんが若い頃の話だろう。


 だからまあ、義父(とう)さんが昔を思い出して森を懐かしがったり、森で暮らし続けたいって思う気持ちはわかる。


 でも今年十七のあたしは、本格的な森の暮らしを知らない。

 あたしが生まれるずっと前に、森はなくなっていたんだ。


 だから、義父(とう)さんがこの話をし出すと、あたしはいつもこう返してる。


「あたしら都会暮らしの魔女に、それを言ってもムダだよ!」


 あたしがそう言うと、義父(とう)さんはいつも顔を覆って大袈裟に嘆く。


「嘆かわしい。よりによって、()()()そんなことを言うなんて……」


 だったら、毎回毎回あたしの顔を見るたびに同じことを言わないでよ。

 仕方ないじゃない。

 それが今時の魔女の生き方なのよ。


 義父(とう)さんは未練たらしく、森の名残のある田舎の村はずれに住んでいるけど、あたしはそこの暮らしに見切りをつけて、王都に移り住んだ。

 もう二年前のことだ。


 王都にはたくさんの魔女仲間がいる。

 先輩魔女は、普段は口うるさいし意地悪だけど、いざってときは頼りになった。


 今あたしが住んでいるアパートメントも、先輩魔女が口を利いてくれたおかげで見つかったようなものだ。

 身寄りのない若い娘に、ホイホイ部屋を貸してくれる大家なんて、そうそういない。

 だから保証人になってくれたエドラおば……エドラ姉さんには感謝してる。


「魔女が注目されないよう、細心の注意を払うんだよ! あたしらを巻き込むんじゃないよ!」


 多少口うるさくても、感謝しなきゃいけないってわかってる、一応。


 それから、王都に出てくるよう誘ってくれた魔女友達にも。

 特に子供の頃から一緒に魔女の修行をしていたアンネリは、王都に出てきたばかりで右も左もわからないあたしに、色々教えてくれた。


「あんたってば本当田舎臭いわよねえ。都会に出てきたんだから、もう少し垢抜けなさいよ。男を作れば多少はマシになるわよ!」


 うるさいなあ。余計なお世話……じゃなかった、感謝感謝。

 あんたこそ、日に日に化粧が濃くなってるよ? なーんて、口が裂けても言いません。



 そうして王都に出てきたあたしら魔女が、生計を立てるために始めたのが「占い」だ。


 森が消え、機械化が進み、今まで魔術に頼ってきたこと――例えば医術とか、天気の予想とか――を自分たちでできるようになってくると、人々は魔術を胡散臭いものだと考えるようになった。


 ――科学がすべてだ!

 ――科学万能の世の中になった!


 人々はそう息巻いて、なにやら(せわ)しない世の中になってしまった……らしい。


 そうやって魔法や魔術が「怪しいモノ」と思われるようになり、魔女や魔術師は森を追われるだけでなく、生業(なりわい)さえ失うことになった……らしい。


(なにしろ全部あたしが生まれる前の話だから、詳しいことはわからない)


 今では魔女も魔術師も、世間様に合わせて「魔法? そんなもの知りませんよ」という顔をして生きている。


 もし誰かの前で「魔法が使える」なんて言おうものなら、眉を(ひそ)め、見てはいけないものを見たような顔をして、そそくさといなくなってしまうからだ。


 王都に来て間もない頃、あたしもやっちまったっけ……

 まあいい、過ぎたことは忘れるに限る。


 んで、魔法が使えなくなったあたしらは「占い」を始めた。


 魔法がダメなのに、占いはいいのかって?

 そこは、あたしも不思議なんだけど、魔法はなまじ結果が出る分「怪しいもの」「怖いもの」と思われている。


 そこへいくと「占い」は、カードゲームの延長のようなものだ。

 結果なんて、本当に当たるかどうかわからない、運に左右されるもの。

 むしろそこがいいらしくって、特にご婦人方には好評だ。


 本当に未来を知りたいのなら、魔女に見てもらった方が確実なのに変な話だけど、それが需要というものだとさ。

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