43 諍いを起こすもの
「世界樹の周りにいた三匹のことは、理解したね?」
「ええ、フレースヴェルグが世界樹の枝にいて、ニーズヘッグが根本にいて、ラタトスクが二匹の間で伝言をつたえていたのね」
「その通り」
ただしラタトスクは狡猾で、両者が預けた伝言を捻じ曲げてつたえ、二匹を争わせて楽しんでいたのだそうだ。
あたしはトールビョルンの顔を思い浮かべ、いかにもそういう意地悪をやりそうだ、と頷く。
「その後、予言通りラグナロクが起き、神々の時代が終わった。神話の時代の生き残りである我々もまた、変容を余儀なくされた」
「じゃあ、あたしたちはラタトスクに騙されて、喧嘩したままラグナロクで別れ別れになっちゃったの?」
「いいや、ラグナロクが始まる直前に気がついた。しかしラグナロクが起きたために、ラタトスクに反撃することができないままとなったのだ」
「……ねえ、もしかしてラタトスクがラグナロクを起こしたなんてことはない?」
蛇は鎌首をゆっくりと振る。
「いいや、ラタトスクにそんな強い力はない。しかし卑小な存在であるからこそ、他の力を借り、あたかも自分が大いなる力を持っているような振りをするのだ」
ああ、人間にもいるいる、そういうの。
そして、あたしたちが魂を受け継ぎ受け継ぎして生き延びている間、ラタトスクは世界樹の幹を渡りながら、長い時間を眠って過ごした。
さらにその世界樹はといえば、最近(といっても十数年前のことだ)人間たちに切り倒され、なんと城の正面玄関の扉にされたのだそうだ。
もしかして、あの宮殿の玄関の大きな一枚板の扉?
ウリカさんがアルテアン王国建国からの歴史が刻まれてるって教えてくれた、あれ?
「世界樹を、玄関の扉にしちゃったんだ……」
ちょっと気が遠くなりかけていたあたしに、蛇が笑いながら元の世界樹ではなく、その子孫だと教えてくれた。
とにかく、そのときラタトスクは目を覚まし、世界樹が切り倒されたことを知って、人間への怒りを燃やしたようなのだ。
そして生まれたばかりの王子に取り憑いてしまった。
「そうか、だから『真実の瞳』の答えが……」
人であって人でない、そんなありえない存在になったのだ。
栗鼠の姿を取ったり、人間になったり。
吸血樹を操ったり。
「ラタトスクの狙いは、なに?」
「それは私にもわからない。半分人間となったラタトスクは、人間が裁くべきだろう」
なるほど。
……え、でも待って?
半分は人間でも、半分は神話の生き物なんだから、神様が裁いてくれないかなあ。
「神々は、もういない。ラグナロクは遥か昔に起こり、終わり、そして長い時間が過ぎた。我々神話時代の生き残りの力も、長い時を経てかなり薄まってしまった」
一連の話を聞いたあたしは、国王に直接トールビョルンのことを訴えることを思いついた。
神様を頼れないのなら、人間の王様にけじめを付けさせなくちゃ。




