40 マクシミリアン、ライラの髪を受け取る
あたしが地下の部屋で蛇と出会っていた頃、マックスはトールビョルン第四王子を追うことにしたそうだ。
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ライラが連れ去られてしまった後、私はすぐに城へ帰ることを決めた。
トールビョルンが行くところと言えば、王城しかない。
エシィ同様、身体が弱くて外に友人の一人もいなかったからだ。
尤も、身体が丈夫だったとして、彼が友人を作っていたかどうかは、別の話だ。
ちなみに、私にも友人はいない。
城に戻れば私はまた監禁されるだろう。
抜け出していたことがわかれば、今度は自分の部屋などではなく、地下牢に入れられてしまうかも知れない。
それでも、ライラを助けるためなら構うものか。
なによりもライラの無事を優先させなければ……
そう思い詰めていた私の肩を、マグヌス氏が優しく叩く。
「大丈夫、ライラはああ見えてしたたかだし、栗鼠っころがライラを殺すことは、まずない」
マグヌス氏の栗鼠っころ、という言い回しが面白くて、こんなときなのに、つい笑ってしまった。
「そうそう、笑って余計な力を抜いて、ね」
落ち着いているマグヌス氏の顔を見ながら、今回会ったら聞こうと思っていた質問を、再度尋ねる。
「あなたはなぜ、『吸血樹』退治の相棒にライラを推薦されたのですか? 彼女本人は、あまり魔力がないと言っていました」
引き出しからなにかを引っ張りだそうとしていたマグヌス氏が、動きを止めて振り返った。
「魔女としての力、かね。なるほどライラは、魔力の量はあまりない。しかし他の魔女にはない、大きな力があるのだ」
そう言いながら、布で出来た小さい袋を私の手に押し付ける。
「なんですか? これは」
「ライラの髪の毛が入っている」
「え……」
ウリカのことを思い出した。
正直「髪の毛が欲しい」と言われたときには、少々気味が悪く感じたものだ。
普通は「髪を受け取る」という言い回しで、親しい人を亡くした意味になることは、詩などの表現で知っている。
とはいえあのウリカのことだ。たぶん私のことを心配するあまり、ああ言ったのだろう。
しかしてマグヌス氏まで、なぜライラの髪を持っている?
そしてなぜ、私にそれを渡そうとする?
よほど顔に、その疑問が表れていたのだろう。
マグヌス氏が笑って説明をしてくれた。
「わしら魔法の民にとって、誰かの髪の毛を持つのは、互いの無事を確かめ合う手段なのだ」
「へえ」
「親しい間柄なら、皆互いに髪の毛を持ち合う。ライラもわしの髪を持っているはずだ。それに友人のアンネリとも。魔力の弱いライラでも、自分が持っている髪の毛の相手の安否なんかは感じ取れる」
「なかなか、便利なのですね」
「もう少し魔力の強い者なら、髪の毛の主の居場所を当てて、連絡を取り合うこともできるぞ」
「そんなことも!」
改めて私たちは魔法のことを知らなすぎるのだと、思い知らされた。
「でも、あなたに渡されたはずの彼女の髪の毛を、私が持っていたら、ライラが勘違いしませんか?」
「それはないな。持ち主が他の誰かに移ったことくらいなら、あの子でもわかる」
「へえー……」
感心する私に、マグヌス氏は更なるライラの秘密を語りだした。




