04 その名はマクシミリアン(知らんけど)
マックスとあたしは渓谷を流れる小川に沿って、義父さんの家に向けて歩き出した。
義父さんのことだけじゃなく、あたしの名前まで知っていたこの謎の男――マックスことマクシミリアン――は、どうやら義父さんのお得意さんらしい。
「だからね、君のことは前からマヌグス氏に聞いて知っていたんだ」
「ふーん」
「君に会いたいと思って、毎日汽車に乗って探していたんだよ」
「ふーん」
「君って毎日、気まぐれで行先を変えているんだろう? 一ヶ月かけて、ようやく今日巡り合えたんだ」
「ふーん」
「これって、もう、運命なんじゃないかな!」
「はあ?」
あたしが東に向かった日はマックスが西に、あたしが北に向かった日はマックスが南に。
そんな具合にすれ違い続けて、一ヶ月も会えずじまいだったのに、どこが運命なんだろう?
それよりもあたしが気になっているのは、彼が「義父さんのお得意さん」ということだ。
「ねえ、マックス。聞いてもいいかな?」
「うん、いいねえ。『マックス』! 愛称で呼ばれるなんて、初めてだよ」
「黙って聞いてくれる?」
なんというかマックスは「人懐こい」と「頭おかしい」の間を行き来してる……というか、どちらかというと「頭おかしい」にかなり寄ってる感じがして扱いづらい。
「あんたって、『魔法』に抵抗ないの?」
「抵抗?」
あたしたちが歩いている岸辺の川は、歩けば歩くほど狭く小さい流れに変わる。
渓谷の切り立った崖の下の木々が多くなり、昔この辺りに森があった頃の姿を彷彿とさせた。
義父さんに聞いたところでは、ここが森だった頃は、魔女や魔術師といった魔法の民が大勢棲みついていたらしい。
そろそろ秋が深まろうというこの時期は、木の実や茸を採って人里に売りに行き、パンやミルクと交換していたと、よく懐かしそうに話をしていたっけ……
だけどそれも、昔のこと。
今は魔法なんて信じてくれる人はいない。
魔法が使える、なんて言った日には嘘つき呼ばわりされるだけだ。
あたしはマックスの斜め後ろを歩きながら、彼を改めて観察する。
「ねえ、あんた本当に『魔法』を信じてるの?」
「信じていなくちゃ、できたばかりの羽を背負って陸橋から飛び降りたりできないよ」
「それもそうか」
(珍しいな……)
マックスが着ているフロックコートは、かなり上質なものだ。
王都の高級テーラーで、あつらえているような代物。
あたしが着ているよれよれの上着とはえらい違いだ。
あたしが知る限り、こういった高級品を着ている御仁ほど「魔法」を糾弾したりする。
一番、「科学」とか「工業化」とかの恩恵に預かっている奴らだ。
そういう奴らが率先して、森を切り倒し、魔法を否定し、魔法の民を追い詰めたのだ。




