37 姿を現した邪霊
「ラタ……?」
初めて聞く言葉に、あたしは首を傾げる。
「なに、それ」
「神話に出てくる栗鼠の名前だ」
あたしと違い、マックスはその言葉を知っているようだ。
「マックス、酔いは醒めたようね」
「ああ。しかしいっそのこと、まだ酔っていた方がマシだと感じているよ」
「なんで?」
どういう意味がわからない。
そのとき、さっきの栗鼠が再び口を利いた。
「我が女王。できそこないのフレースヴェルグではなく、我が手をお取りください」
可愛い見た目の栗鼠が、大人の男の人の声で人間の言葉を話す。
違和感以上に、その姿から声から禍々しいなにかがあふれ出ていて、思わず身震いした。
「女王? 誰のこと? それに、その……フレ……? って、なに?」
「ライラや、その声を聴いてはいけない。それは邪霊だ」
「邪霊とはひどい言いようだ、古老」
今度はコローときた。
義父さんがコローで、栗鼠がラタなんとかで、あと多分マックスがフレなんとか。
で、あたしが「女王」?
わけわかんない。
確かに、こいつは義父さんの言う通り、人を惑わす邪霊のようだ。
その邪霊栗鼠に、マックスが妙なことを言い放つ。
「邪霊でないと言うならば、人としての姿を現せ、トールビョルン」
え? トールビョルン?
それって、「人であって」「人でない」と真実の瞳が告げた、あの得体の知れないお兄さんの名前よね?
「兄に対する敬意が不足しているようだな、愚弟よ」
そしてあたしも気がついた。
この声、さっきの夢の中で聞いた声だ。
でも、声音が全然違う。
夢の中で聞いたのは、もっと儚げで優しい声だった。




