36 吸血の森
義父さんのお茶が効いたのか、その後はぐっすりと眠ることができた。
しかしもうすぐ夜明けを迎えようという頃、遠くで地鳴りのような音が聞こえてくる。
ずぅ……ん
ずぅ……ん
その音は次第に近くなり、それと共に家がガタガタと大きく揺れだした。
棚の上のものが音を立てて落ち、柱が軋む。
「な、なに?」
義父さんと顔を見合わせていると、マックスも飛び起きてくる。
「今のは、なんだ?」
三人で外に出てみると、異様な光景が広がっていた。
義父さんの家は、昔あった大森林の名残の近くに建っている。
家の背後には小さくなってしまった森があり、玄関の前には大きくはないが畑が広がっていた。
木が切り倒されて荒れ地になっていたのを耕して、スペルト小麦の畑やハーブを植えているものだ。
今、その小麦やハーブの畑が掘り返されて木が生えており、更にその先まで森へと変わってしまっている。
「は……? え……? なに……?」
あれほど「森の暮らしに帰りたい」と言っていた義父さんが、目の前の光景が信じられずに挙動不審に陥っていた。
「これは、どうしたんだ? 一晩で家が移動した、とか?」
混乱しているマックスがありえないことを呟く。
家の周りを確認してきたあたしは、とりあえず見たままを話した。
「ううん、移動したわけじゃない。家の裏の景色は今までと一緒だった。家の前だけが変わったのよ。木がたくさん生えて、森みたいになっちゃったのよ」
一晩で森ができたなんて、普通に考えればありえない。
そのありえないことが、実際に目の前で起きていた。
そんなの、普通の「木」ではありえない。
あるとしたら「吸血樹」だ。
「吸血樹が一度にこんなに生えたというのか? 一本二本どころじゃない、森になってしまうくらい……?」
青ざめるマックスに負けないくらい、あたしも震える。
「こんなの、吸血の『森』じゃない。どうすればいいの、こんなにたくさん相手に……」
そのとき、誰か知らない声が聞こえた。
「そんなに恐れないで、我が女王」
知らない声……?
ううん、知っている。
あたし、この声をどこかで聞いたことがある――
声のする方を振り向くと、そこには一匹のリスがいる。
それを見て、義父さんが両手で頭を抱え叫んだ。
「ラタトスク……!」




