表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/82

34 義父さんの家、再び

 朝一番の汽車で南に向かったあたしたちは、昼過ぎには義父(とう)さんの家に着いた。


 汽車に乗る前に、少し考えて魔法の変装はあたし自身にかけた。

 マックスの髪が短くなった分、人の目をごまかせると判断したのと、兄妹という設定にしようと考えたからだ。


 若い男女が二人で汽車に乗っているだけで、どんな関係なのか探ってくる暇な人が世の中にはいる。

 その点兄妹ならば、そういった下世話な人の興味も他に流れてしまうものだ。


 マックスとそっくりの銀髪に見えるようにし、年齢も一目でマックスの妹だと思われるよう、十三、四歳に見えるように変装する。

 問題は、その姿でマックスの前に現れたら、「か……可愛い……」と言って固まってしまったことだ。


 その後は「お兄ちゃんから離れないで」だの「わからないことは、お兄ちゃんに聞いて」だの、無闇にお兄ちゃん風を吹かせたがった。

 正直、ウザい。


 そんな疲れる汽車の旅をどうにかやり過ごし、この間飛び降りた陸橋を通り越して、その次の駅で降りた。


 + + +


「前回も今回も突然の帰省なのに、マグヌスさんは全然驚かないんですね」


 マックスの疑問に、義父(とう)さんは泰然と答える。


「そりゃあ、いつかはお前が森に帰ってくるとわかっているからね」


 そういう言い方するから、反発したくなるのに、わかってないよね。


「ねえ、義父(とう)さん。どうしてマックスにあたしを推薦したの? あたしはそれほど魔力がないって、知ってるでしょう?」


「それはだな、その……蜂蜜酒(ミード)でも飲むか?」


 わかりやすく義父(とう)さんの目が泳いでるのに、マックスは気がついていないようだ。


「おお、これが蜂蜜酒(ミード)ですか! いただきます。……思ったより甘くないのですね」


「発酵するとき甘味が使われるらしいわよ、よく知らないけど」


 マックスは蜂蜜酒(ミード)が気に入ったのか、おかわりしている。

 お酒に強くないはずなのに、そんなに飲んでも大丈夫かな。 


「それより、どうなのよ? 義父(とう)さん。理由を教えて」


「ちっ……。ライラは蜂蜜酒(ミード)では、誤魔化せなかったか」


 舌打ちしてないで答えてよ、義父(とう)さん。

 そんなあたしを余所に、マックスがグラスを差し出した。


蜂蜜酒(ミード)に蜂蜜を入れていただいても、いいですか?」


「ああ、勿論勿論」


「マックスも蜂蜜酒(ミード)に流されないで!」


「ところで私もマグヌス様に問いたい。なぜ私にライラを推薦されたのですか?」


「うう、こっちも誤魔化せなかったか」


「観念して答えてよね」


 マックスとあたし、二人から問い詰められた義父(とう)さんは、いつになく挙動不審になる。


「それはその……ライラは実は(いにしえ)の言い伝えによる、秘めた力を持っていてだな、古き女王の血を引いていて……えーと」


「なるほど! それでその秘めた力とは、どんなものなのでしょうか?」


 マックスが興奮した分、あたしが冷静になった。


義父(とう)さん。マックスは騙せても、あたしはそんなことでは誤魔化されない! 前に王都で流行ったお芝居の筋にそっくりじゃない!」


「えっ、そうなのか?」


「ライラや、お前が芝居を見に行ったなど、初めて聞いたぞ。ケチケチした暮らしぶりのはずだったが、どういう風の吹き回しだ?」


「それは、その……奢りだったからよ」


「芝居を奢ってくれるご友人とは、太っ腹な。それは絶対アンネリじゃあないな」


「友人というか、その、か、彼氏……」


「「彼氏!」」


 なによ、二人して。

 あたしに彼氏がいちゃあ、おかしいっていうの?

 まあ、その話は続きがあるけど。


「正確には、彼氏になるかも知れなかった人! お芝居観に行って、帰りの食事の席で振られたの!」


「「振られた!」」


「二人して口を揃えて『振られた』なんて、言わなくてもいいでしょ?」


「いや、その男は見る目がない。私だったら……」


 そのとき義父(とう)さんとあたしは、マックスの顔がいつの間にか真っ赤になっているのに気づいた。


「わ、私だったら……あ、あれ? なん()か急に顔がぽかぽかしてき()ろ」


蜂蜜酒(ミード)が回ったかのう? ライラや、王子殿下を寝床に案内してあげなさい」


「そう()な! 私も、もう寝た方がいいような気がしてき()!」


 笑いながら腕をバタバタと動かすマックスは、本当に酔っ払いの様相だ。

 あたしは先日マックスを寝かせたソファを、暖炉の前に移動しようとしたけど、義父(とう)さんが止める。


「やはり、ソファというのは王族の方を寝かせるのには向いていない。お前の部屋を貸してやりなさい」


「はーい」


 マックスの肩を担いであたしの部屋へと案内する。

 寝台に下ろすと、言葉で抵抗された。


「いや、ライラ。女性の寝台()眠るわけには……ふう」


 そうは言うものの、酔いが回った体は力が入らないらしく、そのまま藁のマットレスに沈み込む。


「たったあれだけのお酒で、よくここまで酔えるわよね」


 なるほど、あのホットワインを一瓶飲んでいたら、やっぱりこうなっていただろうな。

 布団を掛けようとするあたしに、マックスがまだ絡んでくる。


「ライラ。気にし()はいけない。君を振るなんて、本当にその男は見る目が……ない」


「ありがとう。もう、気にしてないから大丈夫」


 あたしは苦笑した。

 もう、二年近くも前のことだ。

 一度会っただけのその男に、未練なんてない。

 あるとしたら、魔女であることを否定された、その傷だ。


()も君が振られてよかった」


「なんでよ!」


「なん()かなあ……なん()()ろう? 君に恋人がいなくて、喜ん()しまった。すまない」


 酔っぱらいのたわごとと思いつつ、あたしは胸がドキドキする。


 ベッドで寝がえりをうつマックスの襟元が乱れて、ランプの光に首筋が浮かんで見えた。

 目の遣り場に困りながら、布団を掛けて隠す。


「あのね、別に恋人でもなんでもないの。アンネリの紹介で、当時、彼女が付き合っていた人の友達を紹介してもらっただけよ。……でもあたしが自分のことを、魔女だって言ったら、途端に振られたの。それだけの話よ」


「やはり、そんな男と付き合わなくて、正解()。うん、よかった」


「そうよ、よかったの。じゃあお休み、マックス」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ