34 義父さんの家、再び
朝一番の汽車で南に向かったあたしたちは、昼過ぎには義父さんの家に着いた。
汽車に乗る前に、少し考えて魔法の変装はあたし自身にかけた。
マックスの髪が短くなった分、人の目をごまかせると判断したのと、兄妹という設定にしようと考えたからだ。
若い男女が二人で汽車に乗っているだけで、どんな関係なのか探ってくる暇な人が世の中にはいる。
その点兄妹ならば、そういった下世話な人の興味も他に流れてしまうものだ。
マックスとそっくりの銀髪に見えるようにし、年齢も一目でマックスの妹だと思われるよう、十三、四歳に見えるように変装する。
問題は、その姿でマックスの前に現れたら、「か……可愛い……」と言って固まってしまったことだ。
その後は「お兄ちゃんから離れないで」だの「わからないことは、お兄ちゃんに聞いて」だの、無闇にお兄ちゃん風を吹かせたがった。
正直、ウザい。
そんな疲れる汽車の旅をどうにかやり過ごし、この間飛び降りた陸橋を通り越して、その次の駅で降りた。
+ + +
「前回も今回も突然の帰省なのに、マグヌスさんは全然驚かないんですね」
マックスの疑問に、義父さんは泰然と答える。
「そりゃあ、いつかはお前が森に帰ってくるとわかっているからね」
そういう言い方するから、反発したくなるのに、わかってないよね。
「ねえ、義父さん。どうしてマックスにあたしを推薦したの? あたしはそれほど魔力がないって、知ってるでしょう?」
「それはだな、その……蜂蜜酒でも飲むか?」
わかりやすく義父さんの目が泳いでるのに、マックスは気がついていないようだ。
「おお、これが蜂蜜酒ですか! いただきます。……思ったより甘くないのですね」
「発酵するとき甘味が使われるらしいわよ、よく知らないけど」
マックスは蜂蜜酒が気に入ったのか、おかわりしている。
お酒に強くないはずなのに、そんなに飲んでも大丈夫かな。
「それより、どうなのよ? 義父さん。理由を教えて」
「ちっ……。ライラは蜂蜜酒では、誤魔化せなかったか」
舌打ちしてないで答えてよ、義父さん。
そんなあたしを余所に、マックスがグラスを差し出した。
「蜂蜜酒に蜂蜜を入れていただいても、いいですか?」
「ああ、勿論勿論」
「マックスも蜂蜜酒に流されないで!」
「ところで私もマグヌス様に問いたい。なぜ私にライラを推薦されたのですか?」
「うう、こっちも誤魔化せなかったか」
「観念して答えてよね」
マックスとあたし、二人から問い詰められた義父さんは、いつになく挙動不審になる。
「それはその……ライラは実は古の言い伝えによる、秘めた力を持っていてだな、古き女王の血を引いていて……えーと」
「なるほど! それでその秘めた力とは、どんなものなのでしょうか?」
マックスが興奮した分、あたしが冷静になった。
「義父さん。マックスは騙せても、あたしはそんなことでは誤魔化されない! 前に王都で流行ったお芝居の筋にそっくりじゃない!」
「えっ、そうなのか?」
「ライラや、お前が芝居を見に行ったなど、初めて聞いたぞ。ケチケチした暮らしぶりのはずだったが、どういう風の吹き回しだ?」
「それは、その……奢りだったからよ」
「芝居を奢ってくれるご友人とは、太っ腹な。それは絶対アンネリじゃあないな」
「友人というか、その、か、彼氏……」
「「彼氏!」」
なによ、二人して。
あたしに彼氏がいちゃあ、おかしいっていうの?
まあ、その話は続きがあるけど。
「正確には、彼氏になるかも知れなかった人! お芝居観に行って、帰りの食事の席で振られたの!」
「「振られた!」」
「二人して口を揃えて『振られた』なんて、言わなくてもいいでしょ?」
「いや、その男は見る目がない。私だったら……」
そのとき義父さんとあたしは、マックスの顔がいつの間にか真っ赤になっているのに気づいた。
「わ、私だったら……あ、あれ? なんらか急に顔がぽかぽかしてきらろ」
「蜂蜜酒が回ったかのう? ライラや、王子殿下を寝床に案内してあげなさい」
「そうらな! 私も、もう寝た方がいいような気がしてきら!」
笑いながら腕をバタバタと動かすマックスは、本当に酔っ払いの様相だ。
あたしは先日マックスを寝かせたソファを、暖炉の前に移動しようとしたけど、義父さんが止める。
「やはり、ソファというのは王族の方を寝かせるのには向いていない。お前の部屋を貸してやりなさい」
「はーい」
マックスの肩を担いであたしの部屋へと案内する。
寝台に下ろすと、言葉で抵抗された。
「いや、ライラ。女性の寝台れ眠るわけには……ふう」
そうは言うものの、酔いが回った体は力が入らないらしく、そのまま藁のマットレスに沈み込む。
「たったあれだけのお酒で、よくここまで酔えるわよね」
なるほど、あのホットワインを一瓶飲んでいたら、やっぱりこうなっていただろうな。
布団を掛けようとするあたしに、マックスがまだ絡んでくる。
「ライラ。気にしれはいけない。君を振るなんて、本当にその男は見る目が……ない」
「ありがとう。もう、気にしてないから大丈夫」
あたしは苦笑した。
もう、二年近くも前のことだ。
一度会っただけのその男に、未練なんてない。
あるとしたら、魔女であることを否定された、その傷だ。
「れも君が振られてよかった」
「なんでよ!」
「なんれかなあ……なんれらろう? 君に恋人がいなくて、喜んれしまった。すまない」
酔っぱらいのたわごとと思いつつ、あたしは胸がドキドキする。
ベッドで寝がえりをうつマックスの襟元が乱れて、ランプの光に首筋が浮かんで見えた。
目の遣り場に困りながら、布団を掛けて隠す。
「あのね、別に恋人でもなんでもないの。アンネリの紹介で、当時、彼女が付き合っていた人の友達を紹介してもらっただけよ。……でもあたしが自分のことを、魔女だって言ったら、途端に振られたの。それだけの話よ」
「やはり、そんな男と付き合わなくて、正解ら。うん、よかった」
「そうよ、よかったの。じゃあお休み、マックス」




