31 ライラの思い
「もし、ここを追い出されたら……」
もう、王都には住めなくなる。
そんなの、絶対に嫌だ!
……とは、あまり感じていない自分に気がついた。
先日、北に向かう汽車の中でマックスと話すうちに、あたしは自分の本心が薄々わかりだしていたのだ。
王都で、華やかな街で、面白おかしく暮らす――
あたしの中に、そういう欲求は少ない。
いや、まったくないかと言えば違うかもしれないけど、少なくともアンネリみたいに彼氏つかまえておしゃれして、毎日のようにデートしたいとは思えないのだ。
アンネリたちの「都会はいい」「若い女は都会の生活を謳歌するべき」という言葉に乗せられていただけなんじゃないか?
あたしは昔から「変わった子」だと言われてきた。
それがイヤで、つい皆に合わせてしまう癖がついている。
アンネリたちが言うように「都会は魅力的」だと、無理やり思い込んでいた……。
一度アンネリに、男の人を紹介してもらったことがある。
「放っとくと、ライラって全然男っ気がないからさ」
そう言って彼女は、自分の彼氏の友人というその人とのデートをセッティングしてくれた。
デートに相応しい服も、見繕ってくれた。
そうやってアンネリに世話してもらっている手前、「あんまり行きたくない」という本音も言えず、その人と待ち合わせして遊びに行ったのだった。
結論から言うと、そのデートは大失敗だった。
その人との会話はそれなりに楽しかったと思う。
――途中までは。
広場を歩いているとき、カード占いしている女性(勿論、魔女仲間だ)を見かけて、彼が「俺たちも占ってもらおうか」と言い出したのだ。
王都に出てきてまだ一、二ヶ月ほどしか経っていなかったころで、あたしもまだここの流儀に慣れていなかった。
だから、ついうっかり言ってしまったのだ。
「先のことが知りたいなら、あたしが視てあげようか?」
「君、カード占いできるの?」
「ううん。もっと本格的なの。あたし、魔女だから」
その一言から、彼の態度が変わった。
急に険悪になり、あたしたちは口喧嘩した挙げ句、その場でさよならしたのだ。
とばっちりで、アンネリまで当時付き合っていた彼と別れる、というオマケも付けて。
あの後アンネリはものすごーく怒って、しばらく口を利いてくれなくなったっけ。
まあそれで、あたしも自分が「魔女」だってことは、王都では伏せなきゃいけないことだと身に染みた。
ううん、王都でだけじゃない。
森以外の場所では、魔女だとか魔術師だとかは禁句なんだ。
森を出たら、「あたし」は「あたし」だということを、隠さなくてはいけないんだ……
王都の暮らしは便利で、楽なことも多い。
食べるものから着るものまで、生活に必要なものを一から作らなくちゃいけない森の暮らしは、面倒で不便だ。
でも、心のどこかで「森の暮らしこそ、魔女が本当に生きる道だ」という思いも感じている。
「そんなの、義父さんから毎日うんざりするほど聞かされた言葉で、だからあたしもそう思い込まされていて……」
そう、小さいころから何度も何度も、義父さんに言い聞かされてきた、森の暮らしへの憧れ。
小さい子供なら、なんの疑いもなく聞き入れてきたことも、年頃になれば反発したくなる。
そうやって森を出て、王都で暮らしてみたものの、本当のあたしはどうしたいのか、ずっと小さな迷いが燻っていた。
そのくせ、森の暮らしの方が性に合っていると、そんな思いが浮かびかける度に「そんなことはない」と、自分に言い聞かせたりする。
アンネリからの受け売りで、二言目には「あたしたち、今時の若い娘は森でなんか暮らせない」なんて言って、義父さんを嘆かせた。
「あたし、本当はどうしたいんだろう。どうするべきなんだろう」
自分に素直になってみれば、森の暮らしも悪くなかった、と思う。
その一方で、前よりも王都に残りたいという思いが強くなっているのも事実だ。
「王都には、マックスがいるからかもしれない……」
無邪気で純粋で、変ちくりんで優しい人。
あたしなんかを、「きれい」と言ってくれる人。
ああもう本当に、あたしはどうしたいんだ!
わからない。
わからないけど。
「とにかく、まずはマックスを助けにいかなきゃ!」




