30 魔女の流儀
とりあえずウリカさんはお城を出る口実に、買い物をしてくると見張りに話しているそうで、あたしが支度をする間にその用事を済ませるため、一足先に外に出た。
待ち合わせは王城の裏門に午後四時。
まだ少し時間があるから、何を持っていけばいいか考えた。
マックスをどうにかしてお城の外に出すとして、その後の行先はどうしよう?
やっぱりとりあえず、義父さんの家かな?
その時、また誰かがドアを叩いた。
ウリカさん、忘れ物かな? と思ったあたしは、うっかりドアを開けてしまった。
「邪魔するよ」
「エドラ……姉さん!」
この部屋を借りるのに便宜を図ってくれた、先輩魔女のエドラ姉さんが、怖い顔をして立っている。
後ろにはアンネリもいて、彼女から姉さんに話が行ったのだとわかった。
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「世間があたしら魔女に注目するようなことはしないどくれって、あんたを王都に呼んだとき、言ったよね。これ以上この件に関わろうとするなら、このアパートメントから追い出すよう大家に言うよ」
「それだけは、やめて」
あたしは後ろのアンネリを睨みつけるが、それに気づいたエドラ姉さんが雷を落とす。
「あんた、全然反省していないね? その妙な男と二人で何かするだけならまだしも、……いやそれだって本来なら止めてるところだけど、こんな新聞沙汰になった事件になんて、首を突っ込まないでくれ! なにかあれば、あたしら魔女が怪しまれることになるんだよ。わかってるのかい? ライラ!」
「でも……」
姉さんたちは知らない。
貧しい子供たちが、吸血樹の犠牲になっていること。
それをどうにか止めたいという、マックスの行動は間違ってなんかいない。
いくら姉さんに叱られたって、あたしも止めるわけにいかない!
「ねえ、ちゃんと新聞読んだ? 年端もいかない小さい子か、殺されたんだよ?」
「それがどうしたって言うのさ。あたしの知ったこっちゃないよ」
「ひどい! なんて言い草よ! いい? 食い詰めた貧しい親の貧しい子供が朝から晩まで働いた挙げ句、吸血樹なんてバケモンに串刺しになって血を吸われて殺されたの! それを憐れに思えないなんて、それでも人の心があるの?」
エドラ姉さんはハアーッと大袈裟に溜め息をつくと、テーブルをバン! と叩いた。
姉さんがテーブルを叩いたとき、アンネリはビクッと身体を震わせていたけど、あたしはその音の大きさに比べると、その後に続けたセリフは今一つ迫力に欠けている気がした。
「あたしら魔女を、住みかの森から追い出した人間たちがどうなろうと、憐れむつもりはないね」
あたしはすかさず、姉さんの弱みを突く。
「でも姉さん。食い詰めて炭坑で働いている人たちの中に、魔女や魔術師が混ざっているかも知れないじゃない?」
姉さんの手が、ビクッと大きく動いた。
いける。
「魔法を使うと白い目で見られる今の世の中で、魔女や魔術師ができることなんて、たかが知れてる。そうやって追い詰められて炭坑で朝から晩まで働いている人たちの中に、仲間が絶対いないなんて思えないよ」
やっぱり今の言葉は、結構効いたみたい。
エドラ姉さんは大きく溜め息をついた後、「まったく……」と言いながら、立ち上がった。
「確かに、あんたの言うとおりだ。炭坑にあたしらの仲間がいないとは言い切れない。……でもね、あたしはどこかにいるかも知れない仲間より、今目の前にいるあんたのことが心配なんだよ。それだけは、わかってくれるね?」
「……はい」
「とにかく、次はないよ。なにかあったら、あんたをこのアパートメントから追い出す。……わかったね?」
「はい」
アンネリは相変わらず上目遣いで、あたしを睨んでいた。
「私のこと、告げ口したって思ってるでしょ?」
「まあ、実際告げ口じゃない?」
「でも、心配してるってことはわかってよ」
「うん。……まあね」
二人が出て行った後、あたしは力が抜けて寝台に寝っ転がる。
次はない、って言われてしまった。
いや、絶対次はある。なにか、やらかす。
吸血樹がいる限り。
いや、マックスと関わっている限り。




