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26 小さな死 2

 奪った灯りをたよりに、彼らは坑道の入り口へと殺到する。


「おい! トロッコは残していけ! トロッコには子供を乗せるんだ!」


 マックスが叫んだが、まったく聞いていないようだった。


 あたしははらわたが煮えくり返ったが、怒りが頂点に達したところでスコンと冷静さが蘇る。


「とにかく、残された子供たちを避難させましょう! 皆、出て来れる?」


「うん」


 マックスが持っていたランプも残っている。


 二人で、子供たちが出て来やすいように根っこを押さえた。


 一人ずつ順番に出てくる子供たちは、さっきの大人たちよりよほど落ち着いている。

 ……いや、走って逃げるほど力が残っていないのかも知れない。

 皆、それくらい手も足も細かった。


「さっきのお兄ちゃんたち……」


 小さい声が聞こえて振り向くと、そこにいたのは確かにあの姉弟の下の子だ。


「君も無事だったんだね。出られる?」


「うん」


 体が小さい分、穴から出るのは楽そうだった。

 マックスが片手で押さえてできた穴を潜ってくる。


「君で最後? もう、誰もいない?」


「うん」


 どうにか全員救助できそう。

 ホッと気がゆるんだ、その瞬間。


 シュルルル……と聞いたことのない音が、あの温かい根の方から聞こえたかと思うと、なにか太いロープのようなものが伸びてきて、男の子の腹を刺し通した。


「ぐ……は……」


 信じられない、と言いたげに見開かれた目。

 口から血が噴き出る。


「キャアアアアアアアア!」


 自分のものではないような、悲鳴が聞こえた。

 声をあげなければ、気を保てないとでもいうような。


「やめろ!」


 マックスが男の子の体を奪い返そうとしたが、他の根に阻まれて、体を穴の壁面に叩きつけられる。


 そう、子供の体に刺さっていたのは、木の根っこだった。

 しかもそれは先端がキリのように尖っていて、蛇のようにうねり動く。


 そしてその先端はぐるりと曲がり、子供の首をも突き刺した。


「あ……あ……あ…………」


 根っこがまるで心臓の鼓動のように、ドクン、ドクンと動く。

 その度に、子供の体がビクビクと動き、やがて干からびるように萎れていった。


「そん……な……」


 悲しいとか、怖いとか、そういう感情を通り越して、もう悲鳴さえあげることができず座り込む。


 もう用はない、とばかりに根っこが子供を振り落とした。

 すかさずマックスがその子を抱き上げ、恐怖で動けなくなっている他の子どもたちに声をかける。


「逃げるんだ! 早く!」


 それを聞いて我に返った子供たちが、一目散に出口方向に走り出した。


「立てる?」


 マックスがあたしに手を差し伸べる。

 もう片手には、死んでしまった子を抱きかかえていた。


「だい、じょうぶ……」


 彼の手に(すが)りつきながら、どうにか立ち上がる。


「ランプを持って行ってくれるか?」


「うん」


 その後は、どうやって帰ったかはっきり覚えていない。

 途中まで来たら、ストランドさんがトロッコで迎えにきてくれていて、子供たちと一緒にそれに乗って帰ったような記憶がある。


 坑道から出たところで、東の山の稜線を赤い太陽の光が染め始めていた。


 ――助かった


 そんな気持ちにもなれなかった。

 小さな死が、重く心にのしかかっていた。

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