25 小さな死
そのまま二人で坑道を進む。
あたしたちの足音の他は、ピチョン……ピチョン……と時折天井辺りから滴る水の音しかしなかったが、しばらく進むと前方からざわざわと人の気配が感じられるようになった。
「誰かいるのか?」
マックスが声を掛けると、奥のほうから「わあっ」という歓声が聞こえた。
「結構大勢いそうね」
「ああ、生きていてよかった」
あたしたちは足を速めて、先に向かう。
ゆるいカーブを曲がった先に、土砂が崩れかけて太い木の根が網のように絡まっている場所に来た。
根っこの網の向こうに、何人もの顔が見える。
大人の男女の中に、子供たちも混じっているのがわかった。
「助けに来たぞ」
「ありがたい! 早くここから出してくれ!」
「わかった、少し後ろに下がっていてくれないか?」
希望が持てた彼らは、素直に穴の奥へと下がる。
マックスはポケットから小さいナイフのようなものを取り出した。
「ライラ。根っこを触って、温かい箇所がないか、みてくれないか?」
「え? 木の根っこが温かい?」
「ああ。温かくないところは切ったり焼いたりしても大丈夫だが、温かい場所は吸血樹に変化している。そこをうかつに刺激すると、攻撃されるんだ」
木の根が温かいとか、攻撃するとか、普通では想像がつかない。
でも、血を吸う樹という時点で常識とはかけはなれたモノだから、そうなんだろうな、と自分を納得させて根っこを触っていく。
マックスは主に土砂崩れが比較的少ない場所から確認していき、温かくないとわかったところから、さっきのナイフで根っこを切断していった。
あたしはマックスの邪魔にならないよう、そこから少し離れた箇所からペタペタと根っこを触っていく。
「ねえ、そんな小さいナイフで大丈夫なの?」
「勿論。マグヌス氏に作ってもらったものだからね」
なるほど、魔力が込められているのか。
それなら大きいノコギリを背負っていくより、狭い穴の中では使い勝手がいい。
マックスがある程度根っこを切り落とすと、小さいけれど人間が出入り出来るくらいの穴が出来た。
「焦らないで。まずは子供から出ておいで」
マックスは優しい声音で指示する。
彼の言葉通り、子供たちから一人、また一人と出てきた。
その間にも、更に穴を大きくするべく根っこを切り落としていく。
(この分なら、全員避難できそう)
そう安心したとき、小さい生き物が、その根を伝って上に登っていくのが見えた。
素早い動きに(またネズミ?)と、怖気を覚える。
(さっきのネズミかしら。でもなんだかしっぽに毛が生えていたような……)
しっぽがフサフサしているなら、ネズミじゃなくてリスだ。
でもあたしが知る限り、リスって木の上に住む生き物のはず。
首をかしげながら根の感触を確かめていたら、温かい根っこを探り当ててしまった。
「やだ!」
聞いてはいたけど、本当に人間の肌みたいに温かい根っこがある。
しかもジワリと湿り気を帯びた感触があり、気持ちの悪さに思わず手を引いた、そのときだった。
ガ……ガ……ガガガガ……
辺りの地面が大きく揺れる。
土砂が再び崩れ落ちてきて、張り巡らされた根っこの奥にいた人々がパニックになった。
マックスが切りかけていたことで、大人もどうにか通れるだけの穴ができていたようだ。
力の強い大人たちが、我先にと穴から飛び出してきた。
「落ち着いてください! まずは子供から……」
「そんなこと、言っていられるか!」
さっきまで大人しく順番を守っていた人たちが、子供を押しのけて穴から出てくる。
突き飛ばされた子もいたようで、中から泣き声が聞こえた。
「ちょっと! それでも大人なの? 子供を守ろうって気持ちはないの?」
あたしは崩れて死ぬかもしれない恐怖よりも、頭に血が上って叫ぶ。
「自分の子供なら守りたいが、生きるか死ぬかってときに余所の子供のことなんて構っていられるかよ!」
「だいたい、あんたが根っこをいじっていて、こんなことになったんじゃないの? 責任をもって、あんたが子供たちを守りなさいよ!」
先に出てきた男の一人から、あたしが持っていたランプを奪われてしまった。




