23 吸血樹出現
あたしも慌てて自分の部屋に戻り、上着を着る。
少し遅れて、マックスとストランドさんがいる炭鉱の入り口に着いた。
ストランドさんは目に見えて青ざめている。
「なにがあったのですか?」
顔色こそ悪かったものの、ストランドさんはマックスの問いに真っ直ぐに答えた。
「はい。まず先ほど坑道最奥の掘削現場で、地震がありました。坑夫の一人が地震発生を知らせてくれて、はじめて私もそのことを知りました。それほど小さい場所に限定された揺れだったのです」
ブルッと身震いするストランドさんに、マックスが頷いて先を促す。
「それで私も様子を見に行こうとしたのですが、その直後、抗夫が大勢穴から逃げてきました。彼らは皆口々に『妙な木の根が伸びてきて、岩盤が崩れて穴が塞がれた』と恐れ慄いておりました」
「『吸血樹』に間違いないな」
「はい」
二人の会話を聞いて、あたしの頭の中にはさっき見た幼い子供たちの姿が浮かんだ。
「ねえ、中にいた人は全員逃げてこれたの?」
どうか無事でいて欲しいというあたしの思いを打ち砕くように、ストランドさんが首を横に振る。
「いえ、まだ多くの人間が、穴に残されています。逃げて来た者たちの話では根が伸びてきたせいで、岩盤の崩れはむしろ途中で止まったらしいのですが、崩れた土砂の向こうに子供を含め、まだたくさんいるとのことです」
「そんな……!」
頭にカッと血が上る。
ここで怒ったところで仕方ないと頭の隅では思うけど、それより早く言葉が口をついて出た。
「『吸血樹』が出そうだって、出るかも知れないってわかっていて、なぜ掘り進めさせたのよ!」
「そうは言うが、炭鉱事業は国策なんだ。国から決められたノルマを掘り出さないと、こっちがお縄になるんだよ! そもそも、なんで石炭がこんなに必要とされているのか、わかっているのか? あんたらだって、ここに来るのに汽車を使ってきたんだろうが!」
ストランドさんのその言葉に、あたしは何も言えなくなった。
その通りだ。
ここに来る為にも、そして日々の仕事をする為にも、あたしは散々蒸気機関車を使ってきた。
動く為に石炭を必要とする蒸気機関車を利用してきたあたしに、彼を責める資格はない……。
「それより、穴の中がどうなっているのか調べなければならない。生存者がいるなら、一刻も早く助け出さねば」
マックスの言う通りだ。
ここで言い争っている暇はない。
……と思っていながら、再び言い争いを起こしてしまった。
今度はストランドさんじゃなくて、マックス相手である。
「君はここに残れ」
「なに言ってるのよ。あたしもついていく!」
「君を危険な目に遭わせるわけにはいかない」
「それを言うなら、あんただってそうでしょ? 王子殿下」
最後の「王子殿下」だけは、小声で言った。
ストランドさんや他の人に、マックスが王子様だと知られるわけにはいかない。
いや、いっそのこと教えてあげた方がいいかも?
殿下の身に万が一のことがあれば、彼らだって無事では済まないんだから。
「ね? あんたにもしものことがあれば、ストランドさんやこの炭坑の人たちの首が飛ぶわよ。それでもいいの?」
この言葉はさすがに効いたようだ。
マックスは「ぐぬぬ……」と言いながら震え出す。
「しかし……しかし、君にもしものことがあれば、私だって首が飛ぶくらい辛い! そんなのは、耐えられない!」
みるみるうちに、彼の目に涙があふれ出てきた。
やだ、待ってよ。泣き虫かよ。
ここは説得を畳みかけて、とっとと穴の中に入らなきゃ。
「あんた、あたしの義父さんを信じるって言ったよね? 義父さんが『あたしは役に立つ』って言ったんでしょ? ホラ、さっさと入るわよ!」
興奮したせいか、あたしの中からさっきまでの恐ろしさがだいぶ薄まっていた。
今の勢いなら穴の中に潜り込むことができる。
そこに、夕方見た姉弟のお姉さんの方が、あたしに話しかけてきた。
「あの中に入るの? 弟がまだあそこにいるの。お願い、助けて」
「わかったわ! さ、マックス行くわよ!」
「了解」
観念したように、マックスがあたしの後についてくる。




