20 ドングリのネックレス
軽い夕食を摂った後、マックスとあたしは用意されていた部屋に案内してもらい、もう休むことにした。
宿屋というより、この炭鉱に付随している宿泊施設らしい。
炭鉱のオーナーなどが視察にくる為なのか、マックスが通されたのはそれなりに立派な部屋だった。
あたしはもっと小さな、寝台と窓辺に小机が置かれただけのシンプルな部屋。
ちゃんと掃除がされていて清潔なので、小さかろうが満足だ。
それよりも、炭鉱のことが気になって夜更けまで眠れなかった。
あの暗い穴――
絶対に、なにかよくないモノがいる!
朝になったら、あの中に入らなければいけないと思うと、心臓がキュッとなってなかなか寝付けなかった。
おまけにご丁寧にも、この部屋の窓は炭鉱が見える方に付いている。
夜遅くなっても坑道の入り口にランプが灯されているから、この時間になっても稼働しているのだろう。
寝返りを打ったら、壁を蹴ってしまった。
隣はマックスの部屋だ。
(起こしちゃったかな?)
はたして、数分後マックスがドアをノックした。
「ライラ、起きてるのか?」
「うん。眠れなくて」
「私もだ。……なにか、話でもしようか?」
「…………うん」
最初、マックスがあたしの部屋に入ろうとしたけど、あまりに狭くてマックスの部屋に移動した。
「君が通されたのが、あんなに狭い部屋だとは思わなかったよ」
待遇の違いに、憤慨しているみたい。
あたしは別に構わないんだけど。
「多分、マックスの部屋はオーナー向けで、隣のあたしの部屋は従者用なんだと思う。きっと他に適当な部屋がないんだよ」
さすがに男性が泊まる部屋に寝巻では行けないので、昼間の服に着替えた。
マックスも寝巻やガウンではない、普通の服だ。
ちょっと、ホッとした。
夜遅い時間に、家族じゃない男の人と同じ部屋にいる、と思うと落ち着かない。
マックスも同様なのか、ちょっとソワソワしていた。
マックスが寝台に腰を下ろしたので、あたしはテーブルを挟んだ向かい側にあるソファーに座る。
ちょっと距離があるけど、むしろそれでよかった。
お互いに落ち着いたところで、マックスが口を開く。
「やっぱりライラは、夜が似合うね」
……ポエム?
なんて答えたものか悩んでいたら、マックスが小さい声でポツリと漏らす。
「……女王様みたいだ」
はあ?
なんでそう、答えに困るようなことを毎回言うのよ!
というか、さすがに不敬じゃない?
そのときになって、あたしは初めて気がついた。
マックスの目。
マックスがあたしを見る目。
その視線にこもった熱。
マックスもしかして、あたしのこと、好き……? なのかな。
これがもしアンネリに向けられた視線だったら、もっと早く気がついただろう。
でも男の人が自分を好きになるなんて発想、あたしにはなかったのだ。
自分が誰かの恋愛対象になる日が来るなんて……
でも、もしそれが本当だとしたら、これは成就しちゃいけないことだ。
だって、マックスはこれでも王子様だから。
あたしがそんなことを考えているとはつゆ知らず、マックスが言葉を続ける。
「ライラは、夜の森の女王だ」
「安っぽい女王様ね」
笑って誤魔化す。
なるほど、あたしは国を持たない女王か。
「じゃあ、真珠の代わりにドングリのネックレスをつけて、ダイヤモンドの代わりに星の光の王冠を被るのかしら?」
「うん! 素敵だ!」
マックスは真顔だった。
普通の女の子なら、ドングリのネックレスなんてあっても、嬉しくないどころか怒り出すだろうな。
でも彼は、本気であたしが「ドングリのネックレス」を付けて「星の光の王冠」を被った姿を想像したうえで、そう言っているのだろう。
……浮世離れした王子様。
いや、王子様だから浮世離れしているのか。
「樫の葉っぱで王冠を作って、てっぺんに星の光を飾って?」
「そうそう!」
あたしは笑ってみせた後、ちょっと真面目な顔をする。
「それ、あたし以外の女の子には言わない方がいいよ」
「なんで?」
「きっと、怒り出すから。プレゼントをするなら、ドングリじゃなくて真珠のネックレスにしておきな」
「……そうなのか。ライラも真珠の方がいい?」
「いや、どっちでもいいよ」
どっちにしろ、受け取ることはできない。
マックスとあたしの関係は、この「吸血樹」退治だけのことにしなくちゃいけない。
――マックスに、自分の気持ちを気づかせちゃいけない。
胸の奥にズキリと重い痛みを感じたけど、それは無視する。
「それより、マックスのことを話してよ。マックスの家族……王様や王妃様、他の王子様たちのこと。あたしが知らない王家の話を聞かせて!」
彼の気持ちを逸らさせる為に、話題を変えることにした。




