表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/34

02 運の悪い日

 そう、今日という日はごく普通に始まった。


 目を覚ます。

 空はいい天気。

「予想通りね」


 髪を櫛で()かす。

 元の地毛の黒ではなく、真っ白な髪だ。

 ドレッサー代わりのローチェストに櫛を置いた手には、シワが寄っている。

 うん、いい感じ。


 老婆に相応(ふさわ)しい服に着替える。

 着古した木綿のブラウスと黒いスカート。

 出かけるときは、ウールで織られたグレーの上着を羽織るつもりだ。


 仕事に出る前に、朝食を摂ろう。

 戸棚からライ麦パンを出してスライスし、お皿にのせる。

 ベーコンエッグを焼いている間にお湯を沸かし、お茶の用意をした。


 こんなしっかりした食事を食べられるのも、あたしがちゃんと「仕事」をしているからだ。


 起きたときから右のこめかみがピリピリして嫌な感じはするけど、昨日のうちに切符を買ってしまったから、仕事に行かないわけにはいかない。

 蒸気機関車の切符は、高価なのだ。

 無駄にしてなるものか。


 食事が終わったら、家を出る。

 集合住宅(アパートメント)の階段をゆっくりと降りた。

 トントンと軽やかに降りるわけにはいかない。

 誰の目があるか、わからないのだから。


 駅に着く。

 切符に判を押してもらい、改札をくぐった。

「さて、今日はどこ行きに乗ろうか」

 ここ王都の中央駅からは東西南北、四方に線路が延びている。


 あたしは東西南北に向かって順に指をさし、感覚を研ぎ澄ました。

「東」なし。

「西」なし。

「北」こめかみの痛みが強くなった。

 北行きは止めた方がよさそう。

「南」ほんのり甘い香りがする。

 決めた!

 今日は南行きの汽車だ。


 この選択に、間違いなかったはずなんだ……


 + + +


 あたしは魔女。

 名前はライラ・ライル。

 ほんの少しばかり、普通の人が持っていない力がある。

 その力を、人は「魔法」と呼ぶ。


 あたしの魔女としての能力は「少し先の未来が()える」こと。

 これを生かして、占いで生計を立てていた。


 ……というか、今どきの魔女の生業(なりわい)といえば、だいたい「占い」と相場が決まっている。

 だから大通りとか人が集まる広場とか、()()()()は先輩魔女たちが独占していて、あたしみたいな若輩者はどうしたっていい仕事場にありつけない。


 そこで一計を案じたあたしは、蒸気機関車に乗ることを考えついた。

 三〇年くらい前には、この国の東西南北にむけて機関車の線路が敷かれていたが、今でもその切符は高くて中流以上の人間くらいしか、普段乗ることはない。


 ……言ってみれば機関車の乗客は、まあまあ金持ちってわけ。

 そこで商売すれば金離れのいい客が、気前よくチップをはずんでくれる。


 あたしのその予想は、大当たりだった。

 確かにあたし自身が乗るための切符代は高くつくが、それ以上に客がお代をはずんでくれるのだ。


 そうしてあたしは「仕事場」を汽車の中に定め、毎日乗客相手に占いをして暮らしてきた。


 汽車の中で商売するには、本来「鉄道局」ってところに届けを出さなきゃいけない。

 でも真面目にそんなことをしたら、上前をはねられて商売あがったりだ。

 だから、あたしはコッソリと占いをしている。

 もしバレても正体がわからないよう、老婆に変装して。


 そうやって、一年以上も上手くやってきたんだ。

 自分の腕で、自分の足を動かして金を稼ぎ、家賃を払って食い物買って、生活してきたんだ。

 立派に生きていたんだ。


 ……それなのに……!


 なんでどこの誰ともわからない男に抱えられて、崖から放り出されなきゃいけない?

 こんな死に方、ひどいじゃないか!


 あんまりだ

 あんまりだ

 あんまりだ……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ