18 ライラの告白
とりあえず、マックスに自己分析させる作戦は失敗だ。
なにか他の話題を考えなくちゃ。
かといって、気の利いた話題を持っているわけでもないので、自分の話をする。
「あたしの義父さんのマグヌス・ライルは、あたしの本当の両親の友人なんだ」
「へえ」
「あたしの両親も、魔術師と魔女だったんだって」
「ライラは自分の両親のことを、あまり知らないのか?」
「うん。赤ん坊の頃に死んじゃったから、顔も覚えてない。両親の遺言で、あたしにも魔女としての知識を教えて欲しいって頼まれたらしくて、義父さんから魔法のことは色々教わったんだ」
窓の外に視線を移しながら「あんまりそっちの才能はなかったんだけど」と呟く。
北に向かう汽車から見える景色は、灰色と沈んだ緑色だ。
冬に向かう季節の、重い雲がかかった空。
石灰岩の大地は険しく切り立ち、その上を秋の終わりの濃い緑の草原が覆っている。
この辺りは養分のある土が少なくて、汽車が走る前から森が少なかった。
寂しくて人を寄せつけない、美しい景色が続く。
「この辺は、昔から木が少なくてあまり森がなかったから、魔術師や魔女はあまりいなかったんだって」
「へえ」
「うちの実家……義父さんが住んでいる辺りの方が大きい森があったから、昔はたくさんの魔術師や魔女がいたんだってさ。その名残か、あたしと年の近い子たちは皆、義父さんに魔法を教わりに来ていたっけ」
「うん、マグヌス氏の魔法は大したものだ。彼が作った魔法道具を使えば、魔力のない私でも魔術師のように魔法を扱える」
いつもはつい反発してしまうことが多いのだけど、こうして余所の人から義父さんのことを褒めてもらえるのは、素直にうれしい。
「ライラは、どうして王都に出てきたの?」
「え? だって若いんだからやっぱり華やかな都市に憧れるじゃない?」
言いながら、あたしの中には違和感があった。
華やかな暮らしに憧れて上京したにしちゃ、今のあたしの暮らしは地味だ。
アンネリや他の子たちは、皆おしゃれをして男つくって、楽しそうにしている。
おんなじように「占い」でしのいでいるはずなのに、華やかに暮らしている。
なんでこんなに違うんだろう。
本当は稼ぎが違うのかな?
皆、あたしより要領がよさそうだもん。
きっと、蒸気機関車の中なんかより、いいシマを見つけているに違いない。
「どうしたの? なにか考えごと?」
マックスに問われて、自分が黙り込んでいたことに気がついた。
だめだ、だめだ。
話題を変えなきゃいけなかったのに。
「ううん、若い娘なんてそんなものでしょ? って話よ」
「ライラも?」
「……そ、そうよ」
マックスのアメジスト色の瞳があたしを見つめる。
なんだか全部、見透かされているみたい。
今は「真実の瞳」の力は使っていないのに。
「私はずっと王都で暮らしているから、逆にライラの言う『華やかな暮らし』がなにを指すのかわからない。おしゃれをすること? 遊び歩くこと?」
「そ……うね。そんな風に、田舎ではできないこと全般を指す、のかな」
「ふうん。……それはそんなに、魅力的なこと?」
「勿論よ」
嘘。わからない。
たぶんアンネリなら、迷いなく「そうだ」って答えるんだろう。
「なんだか、ライラが本当にそういうものを、楽しいと思っているように見えないんだけどなあ」
マックスの苦笑いに、あたしは俯く。図星だ。
じゃあ、なんであたしは王都で暮らしているんだっけ?
「……たぶん、一緒に遊ぶ人がいないからよ」
「この間のお友達は?」
「アンネリとはまあまあよく会うけど、あの子は彼氏とのデートの方が忙しいの」
「……そうなのか」
一瞬、考え込んだマックスが目をキラキラさせてあたしを見る。
「じゃあ今度、私とそのデートをしよう!」
「へ?」
「ね? 約束だよ」
「あ……は、はい……」
あたしがデートなんてしたのは、たったの一回だけ。
それもヘマやって、途中でお開きになっちゃったんだっけ。
それ以来のデート。
なんだか頭がぼうっとして、血がのぼっていた。
鏡も見ていないのに、顔が赤くなっていくのがわかる。
そんなあたしに、マックスが耳元で囁いた。
「それで『デート』って、なんだい? なにをするの?」
「あのさ、そういうところだから!」
くっそ。
あたしの乙女心を返せ。




