17 マクシミリアンの告白
「私は、ライラの手を、握りたい」
一旦落ち着こうと、個室に二人で向かい合い腰を下ろした。
そこで出てきた言葉が、これだ。
「は?」
「握りたい、と、思ってしまう」
「あ……そ、う……?」
そんなこと言われても、どう返したらいいものか、困ってしまう。
マックスは膝に置いたあたしの手を見て、慌てて視線を逸らした。
ちょっと、そこで赤くならないでよ。
あたしまで挙動不審になるじゃない。
「さきほども、そうだ。個室に入るとき紳士としては女性の手を取って中へ入る手助けをするのが普通なのだけれど、自分の中の欲望に……」
「よっ、欲望?」
「そうだ。『手を握りたい』という欲望に気づいてしまったら、素直に手を差し出すことができなくて……」
あ、さっきのアレか。
手を出したり引っ込めたり。
「いや、待ちなさいよ。手を握るくらい、どうってことないでしょ! あんた昨日なんか、あたしのこと抱きしめたじゃないよ! ね?」
彼の戸惑いがあたしの中にも伝染してくる。
それを誤魔化そうと、昨日のことを揶揄ってやったら「あああああっ……!」と、大声を上げて顔を覆い、座席に突っ伏してしまった。
体を腰から折り曲げたまま、マックスがジタバタと座席の上で転がりだす。
「わっ私は! なんてことを! ああ……!」
「いや、あの、大丈夫だから、ね?」
悶絶するマックスを見ていたら、こちらまで意識してしまって恥ずかしくなってきた。
ちょっとこの空気をどうにかしないと、話が進まない。
「あたし、あんなの全然なんとも思っていないから!」
あたしの言葉に、マックスの動きが止まる。
おもむろに椅子の座面から振り向いて、こちらを覗くようにそっと見た。
「……なんとも?」
「う、うん。なんとも」
嘘。なんとも思わないわけがない。
たかが手を握るだけとはいえ「欲望」なんて言葉を出されたら、ドキドキしてしまう。
でも、それでマックスが落ち着くなら……と思ったのに。
「なんとも思わないと言われるのも、不本意だ」
「あたしにどうしろと?」
+
再び座席に座りなおし、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「えーっと、そうだな……」
とりあえずマックスに自分の気持ちを分析させてみた。
理由がわかれば、あんなにオタオタすることもなくなるだろうと思ったのだ。が。
「私は、君に初めて会った日から、君のことが頭から離れなくなってしまった」
「あ、はい……」
「君の黒い髪と、濃い緑色の瞳。まるで『夜の森』のようだと思っている」
「あ、はい……」
「私の部屋の天井の絵だが、もう何年も前から青い晴れた空の絵にしていて気に入っていたのだけど、それを夜空に塗り替えようと考えたのは、ライラのせいだ」
「なんで?」
「自分の部屋にいても、いつも君のことを感じていたくて、天井を『夜の森』にしたらどうだろうかと、思いついたんだ。君の瞳の色に似た緑の木々から見上げる星空を描いたら、いつもライラを見つめられるような気がして……」
「あ、そう、ですか……」
勘弁して欲しい。
もうさっきから、背中やお尻がムズムズする。
話の内容も内容だけど、真っ直ぐにあたしを見つめてくるマックスの眼がまた、あたしを落ち着かなくさせた。
王都のメインストリートにある宝飾店に飾ってあったアメジストの指輪と、同じ色の瞳。
目蓋が時々伏せられて、髪の毛と同じ銀色のまつ毛が頬に影を落としている。
……まつ毛、長いな。
少し羨ましい。
そしてその頬は、ほんのりと薄い紅色に染まっていた。
こうやって改めて見ると、人形みたいに整った顔だな。
お母さんも美人だったんだろうか?
いや、王様が美形という線もなくはないか。
あたしは義父さんと違って新聞も見ないから、王様の顔も知らないし。
+
「だからね、ライラ」
「あっ、なに? ごめん、聞いてなかった」
まさか「あなたの顔に見惚れてました」なんて、言えない。
「……もう。ライラがきれいだっていう話をしていたのに」
「はあ?」
少し口を尖らせながら拗ねる表情は、いつもよりほんの少し子供っぽく見える。
でも、あたしがきれいだと?
全然きれいじゃありませんが。
そんなこと言われたって、こっちは困るだけなんだけど?
仕方なく話題を変えることにする。
「……そういえば、マックスって年いくつ?」
「突然だねえ」
なぜか機嫌が直って笑顔になる。
「十九歳だよ。今年の誕生日が来れば」
「てことは、今十八? あたしと一つしか、違わないんだ!」
「……なんで驚いているの?」
「あ、いや、もうちょっと年上かと思っていたんで」
でもよく考えてみると、無邪気で人を疑わないところは、むしろ子供っぽいかな。
年上に思えたのは、単に背が高いからかも知れない。
マックスを見ると、なんとも微妙な表情をしていた。
「それは……老けて見える、ということだろうか?」
「いや、老けてるわけじゃなくて……」
「そんな風に言われたことはなかったのだが、うん……ちょっと嬉しいな」
嬉しいんかい!
やっぱり変わってるな、この王子様。
「それはつまり、私がしっかりして見える、ということだよね?」
んなこと言ってませーん。
あたしはこめかみを押さえた。




