表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/32

16 マクシミリアンの悩み事

「こっちだよ! ライラ!」


 次の日の朝、中央駅に行くと、改札の横でマックスが大声であたしを呼びながらブンブンと手を振っていた。

 ただでさえ背が高いのにシルクハットなんぞ被っているから、さらに大きく見えてしまう。

 というか、目立つ。


「ねえ。その帽子って被らなきゃダメ?」


「うーん。紳士の(たしな)みだからなあ」


 上目遣いでその目立つ帽子を被り直す彼から、乱暴に剥ぎ取ってやった。


「あー! なにをする」


「『なにをする』、じゃないわよ。いい? マックス。今日は何をしに行くの?」


「吸血樹退治だけど……」


「その通り。で、吸血樹退治にシルクハットや『紳士の嗜み』って、必要だと思う?」


「そ……」


「必要ないわよね? だって炭鉱に潜り込みに行くわけでしょ? 部外者のあたしらが。潜り込む為には、目立つ必要はない。というか、目立ったらむしろダメ!」


 なにか言いかけたマックスより先に、あたしはベラベラと喋りまくる。

 とっとと説き伏せて、汽車に乗らなきゃいけないんだもの、グズグズしてはいられない。


「わかった?」


「ああ、わかった。やっぱりライラはすごいなあ。先のことまでちゃんと考えているんだね」


 マックスから手放しで褒められたあたしは、思わず鼻が高くなり「ふふん」と声が出た。

 ……のに、次の瞬間マックスはその鼻をへし折りにかかる。


「でも今日行く炭鉱は、責任者に手紙で話をつけているから、変装して潜り込まなくても大丈夫だよ」


 それを先に言ってよ。


「……で? どこ行きに乗るの?」


「北だよ。終点近くにあるカールステボリという町の炭鉱に行く」


 その地名を聞いた途端、あたしの総毛が立った。


「そ、そこ行くの?」


「勿論」


「なんか、ものすごーくイヤな予感がするんだけど」


「じゃ、当たりだ!」


「え、どういうこと?」


 尻込みするあたしの手を掴み、マックスはさっさと改札をくぐった。


 + + +


 気が進まないあたしの分も、マックスはずんずん車両内を歩く。


「申し訳ないけど、個室を使いたいんだ。……大丈夫かい?」


「え? それって奢り?」


「勿論」


「じゃあ、いいよ」


 個室車両は他の席の倍以上料金がかかる。

 自分で払わなきゃいけないなら断るけど、奢りなら遠慮なく個室にしてもらおう。


 ……と思っていたのに、なぜか個室に入ろうとしたところで、マックスが手を差し伸べてくれたり、引っ込めたり、また手を差し出したり、引っ込めたりを繰り返す。

 なに、やってんだ?


「ねえ、とりあえず戸口からどいてくれない? 中に入れないんだけど」


「あ、ああ、ごめん」


 マックスはいつになく、挙動不審になっていた。


「あのさ、あの……本当に個室で大丈夫?」


「さっきから『大丈夫?』『大丈夫?』って、なんのこと?」


 すると彼は目が泳ぎ出して、こちらを見ようともしない。


「だって、君、汽車の個室で襲われかけたんだろう? 私だってこう見えて、一応男の端くれだし、怖くないだろうか、と……」


 ああ、前にあたしが襲われかけたときのことを、気にしていたのか。


「大丈夫。あのときは普通車両から無理やり個室に引っ張って来られたんだけど、全然知らない相手でさ。でもマックスはそれなりに知ってる人だし、あんなことしないって信用してるから、大丈夫」


「……そんな風に『信用してる』なんて言われて、嬉しいけれど……、もしかしたら私は、ライラの信頼に値しない人間かも知れない……」


 どうした、どうした?

 なにか落ち込むようなことがあったんだろうか。

 お兄さんたちに、何か言われたとか?

 あたしの疑問に、マックスは頭を横に振る。


「違うんだ。私が……私自身の心の闇に気づいてしまったんだ……」


「もしかして、本当に吸血鬼……」


「いや、そうじゃなくて」


 うん、突っ込みが早かったから、そこまで心配しなくても大丈夫だな。


「じゃ、話してみて。あんたが思うような闇なんてないかも知れないでしょ?」


「う……うん……」


 そうやって、しどろもどろのマックスに話すよう急かしたあたしだったけど、その告白を聞いて後悔する羽目になるとは思わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ