14 地下の子供たち
「ウリカさんて、マックスに王様になって欲しいのかな?」
帰るとき、塔の階段を降りながら聞いてみた。
さっきのウリカさん、ちょっと普通じゃない顔をしていた気がする。
「うん、多分ね。……あ、ロウソクの明かり暗くない? 足下、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
まあそっか。
話によるとウリカさんはマックスに付いている唯一の侍女で、子供の頃から一緒にいるんだとか。
自分が世話している王子様が皆から無視されているのは、確かに歯がゆいことなんだろう。
「マックスは? 本当に王様になりたくないの? 一度も考えたこと、ない?」
「うーん。ウリカに言われて、何度か自分が王様になったところを想像してみたことはあるよ。…………でも、ピンとこなかった!」
マックスは明るく笑いとばすけど、本当にそうだろうか?
ほんの少しも、王様になりたいって考えたことは、ないのかな?
「あのね、あたしは王様も貴族も政治も、よくわかんない。でも、もしあたしが王様になる人を選ぶんだったら、マックスみたいな人がいいかも」
「ええー?」
マックスは笑うけど、あたしは結構本気でそう思う。
マックスのお兄さんたちがどんな人たちかわからないのに、言い切ってしまうのは変かも知れないけど。
でもあたしは、自分が王様になりたいばっかりに仕事をして見せる人より、純粋に自分を食べさせてくれる国民のために、仕事をしたいと言うマックスが王様になった方がいいって思う。
それも彼の話によると、人を襲う樹木を退治するっていう危険な仕事を、率先してやろうなんて、なかなか言えるものじゃない。
……問題はその危険な仕事に、あたしを巻き込もうとしているってところだけだ。
……そしてその「吸血樹退治」の方も、マックスの説得にのらされて、段々と行く気になってきていた。
+ + +
『一番多く被害が出ているのは、貧しい子供たちだ』
その言葉が、あたしのお腹の中に重い石みたいになって、消えずにずっと残っている。
「どうして? その吸血樹ってのが、貧しい子供を狙い撃ちにしてるってこと?」
「いや、吸血樹の生える場所が問題なんだ」
王都やその周辺の都市ではまだ現れたことがないという、「吸血樹」。
それが今一番多く出現しているのが、地方の地下なのだそうだ。
「君は、蒸気機関車の登場によって、多くの木が切り倒されて森林が消滅してしまったことは知っているよね?」
「ええ、勿論」
だってその為に、あたしたち魔女や魔術師が森を追い出されたのだから。
「そうして木が切り倒されたあと、更に効率のいい燃料が発見された。それが石炭だ」
「あ、知ってる。なんか黒い石みたいなやつでしょ? 大昔の木が変化したモノだって、本で読んだことがある」
「物知りだね、ライラ」
ふふっと笑った後、マックスは悲しそうな顔になる。
「その石炭は地下にあるんだ。地中深く穴を掘らないと、手に入らない代物だ。その為には多くの人手が要る。現在その石炭掘りに多く駆り出されているのが、貧しい子供たちなんだ」
その話は、初耳だ。
以前アンネリから、『石炭掘りの男たちって、屈強でステキなのよ』という話を聞いたことがあった。
確かに地下に埋まっているものを掘り出すのなら、筋骨隆々な大人の男が向いているだろうと、頷いたことを覚えている。
「待って。石炭掘りって筋肉がモリモリしてる男たちがやってるんじゃないの?」
「あれ? よく知ってるね」
え、今さっき子供が掘ってるって言ったよね?
どっちなんだよ、マックス!
「そう、最初は力の強い男たちが多かったし、今でもまあまあ多いだろう。でも機械化とか工業化が進んだ結果、今は経済的な格差が広がって、貧しい人々は男も女もそして子供までが働かないと生きていけなくなってしまっている」
先に塔の階段を降り切ったマックスが、扉を開けた。
外の新鮮な空気があたしのいる場所まで入り込み、思わず深呼吸する。
特に意識していたわけじゃないけど、やっぱり狭い塔の中の階段を降りているときは、どこか閉塞感があった。
塔を振り返って、部屋があった一番高い場所の窓を指さして、マックスが言った。
「この塔はね、昔、戦争をたくさんしていた頃に建てられたんだ。敵が攻めてくるのをいち早く見つける為のものだよ。……現在そこに住んでいる私もまた、この国の危機にいち早く気づいて、対処しなければいけない立場だと思っている」
「そんなこと、誰に言われたのさ」
「別に誰からも。でも、言っただろう? 私は私の義務を果たしたいんだ。私がのうのうと暖かい部屋で美味しいものを食べている間にも、この同じ国で小さい子供が危険な炭鉱で働いている。ライラはさっき塔の階段を降りているとき、『早く外に出たい』て思わなかったかい?」
「う……ん。少し思った」
「ね? こんな階段でもそう思うんだ。地下深く掘り進めている炭鉱の中は、もっとそう感じるだろうね。年端も行かない、小さい子供は特に」




