13 塔の上の王子様 2
楽しそうに笑うマックスを見ていると、急に胸の痛みを覚える。
「ねえ、あんたさあ、……あ、すみません、王子様」
「マックスでいいよ」
「じゃあ、マックス。王子様たちの中で、あんただけ部屋がこんな……塔の上だって聞いたけど、本当?」
もう少しで「寂しい塔の上」と言いそうになり、かろうじて飲み込んだ。
「その通り。兄上たちの部屋は宮殿の中にある」
「そんなの! おかしくない? あんただって王子様でしょ? お母さんが違うからって、変だよ!」
「でも、私はこの部屋が気に入っているんだ。だって、あの宮殿の中だったら
自分の部屋を好きなようにいじれないよ。天井を星空に塗ってしまったら、どれだけ叱られるか!」
マックスが楽しそうに笑うと、ウリカさんもニコニコしながらお茶の用意を始めた。
ああ、マックスはここの暮らしを心から楽しんでいるんだ。
「実を言うと、例のマグヌス氏に作ってもらった羽も、元はと言えばこの塔から降りるために作ってもらったものなのだ」
「なるほど」
そう言いながらも、あたしは今一つ、いやふたつ、みっつ、よっつくらい納得がいかない。
「あんたはよくても、あたしはやっぱり『これでいい』って思えない! 王様は、あんたのお父さんは、なにやってるのよ!」
「……父のことは、許してくれないか? あの人は本来とても気が弱いのに、王家の血を引いているから王様にならなくちゃいけなくて、とても大変な思いをしているんだ」
「……だって……」
「あのね、ライラ。私が考えなければいけないのは、兄上たちとの境遇の差ではないと思っている」
「……どういうこと?」
ウリカさんが穏やかに微笑みながら、マックスとあたしにお茶を淹れてくれた。
マックスは「熱いうちにどうぞ」と勧めながら、自分もテーブルにつく。
「ねえ、ライラ。君は二年前に王都に出てきて、一人暮らしをしているそうだね。その生活費はどうしている?」
「……占いで日銭を稼いで、しのいでる」
「うん、仕事をして住まいを借りて、衣食を賄っているんだよね? でも私は違う。……ただ生きていくだけなら、何もしなくてもいいんだ。何もしなくても、君たちよりもずっといいものを食べ、いい服を着ている。ね、不公平だと思わない?」
「……う」
うん、と言いかけて悩んだ。
確かにマックスをあたしらと同じ人間だと考えれば、たしかに不公平なんだろう。
でも、マックスは王子様だ。
あたしはこの王都に住んでいる人間の中でも、身分としてはほとんど底辺に近い。
そんなあたしが、王子様の境遇と比べて不満を持つなんて、おこがましいと思う。
……そこまで考えて、気がついた。
「マックス。あんた自分のこと、あたしらみたいな庶民と同じに考えてる?」
「そうだよ。どうして?」
「……バッカじゃないの!」
あたしの剣幕に、マックスは困ってしまったようだ。
眉を下げたまま、あたしに笑顔を向ける。
「私を君たちと同じと考えることが、なぜバカなの?」
「仕事なんてしなくたって、そんなの『当たり前』って顔してふんぞり返っていればいいじゃないのさ! 貴族なんて皆そんなもんでしょ? ましてや、あんた王子なんだから『仕事してない』とかそんなこと気にする必要ないよ」
「そうはいかない。一の兄上や、二の兄上はちゃんと仕事をしている。王族として公務をこなしているんだ。でも、私は仕事をすることが許されていない……」
マックスの言葉がわかりにくくて、あたしは首を傾げた。
多分、『一の兄上』は第一王子で、『二の兄上』は第二王子のことかな。
「えっと、第一王子と第二王子は公務をしているのに、マックスはしちゃいけないって、どういうこと?」
「兄上たちは、公務をこなすことで『自分こそ次期国王に相応しい』ということを皆に示そうとしているんだよ。そこに私がもし『公務をしたい』なんて言ったら、私もまた国王候補に名乗りをあげたとみなされる。……今まで以上にハルヴァラ公から睨まれるだろう」
「マックスは王様になりたくないの?」
「全然。だから誤解されて敵を増やすのは得策じゃない。かといって、何もせずに良い暮らしをするのは、心苦しい」
「坊ちゃま!」
さっきまでニコニコしていたウリカさんが、怖い顔でマックスを叱る。
「坊ちゃまにも王様になる資格はございます! 諦めてはいけません。兄上たちと比べても、坊ちゃまの方が王の器をお持ちだと、ウリカは思っております」
なんだかウリカさんが、違う人になったみたいに見えた。




