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12 塔の上の王子様

「とにかく、君の優しさに心温まっている場合ではないのだ」


「いや優しくしていないから、勝手に温まらないで」


 あたしの突っ込みも意に介さず、マックスはまた真面目な顔になった。


「王都周辺ではまだ起きていないが、奇妙な木がこの国のあちらこちらで突然生えてくる現象が起きている。その木は普通の木ではなく、人を襲い血を吸うものなんだ」


「やだ、冗談でしょ? そんな事件が起きていたら新聞が黙っていないじゃない」


「この件は、箝口令が敷かれている」


「カンコーレー? なにそれ」


「つまり、(おおやけ)にできない案件ということだ。新聞記者たちも事件のことは知っているが、それを報道してはいけないと言われている」


「そうなんだ……」


「…………」


「…………」


 沈黙に耐え切れず、あたしはまたマックスに突っ込む。


「それ本当だとしたら、こんな人がいっぱいいるカフェなんかで、しちゃいけない話なんじゃないの?」


「それもそうだ。場所を移そう」


 + + +


 というわけで、あたしは今なぜかお城にいる。


 場所を変えることになったものの、あたしのアパートメントは狭いし、マックスが「女性の部屋に男である私が押し掛けるのは云々」とか言い出したので、別の場所を探すことになったのだ。


 ……だからといって、いきなりお城はないでしょう?

 王様やら王妃様やらが住んでるところだよ?

 あたしみたいな育ちの悪い(はす)()魔女が、入り込んでいい場所じゃない!


「あ、あの、ウリカさん……でしたっけ? ありがとうございます」


「いえいえ、どうしたしまして。坊ちゃまのお願いですからねえ」


 あたしがお城へ入り込むために、まず先にマックスが一人で城に帰る。

 そしてマックスから事情を聞いた侍女のウリカさんが、買い物に出る振りをしてあたしに侍女用のお仕着せを持ってきてくれる。

 あたしがお仕着せに着替えて、ウリカさんと一緒に城内に潜入する。(イマココ)


「坊ちゃまの部屋まで階段をかなり登りますけど、大丈夫ですかねえ?」


「あ、はい。足腰は丈夫なんで。それより、ウリカさんは毎日この階段を昇り降りしてるんですよね?」


「はい、もう慣れました」


 マックスの部屋があるという場所は高い塔の上で、正門正面にある大きい建物(あたしら庶民がお城と聞いて、真っ先に思い浮かべる宮殿ってヤツだ)とは離れた建物だ。

 狭くて石を積んだだけの殺風景な螺旋階段は、お城にいるという感じがしない。


 +


 しかしすごいなあ、ウリカさん。

 五十歳はゆうに超えていそうなのに、「慣れました」の一言でこの階段を昇り降りしているなんて、見かけによらず体力がある。

 そんな風に感心してしまうくらい、マックスの部屋につながる階段はたどりつくまでが長かった。


「王子様の部屋って、皆こんな高い塔の上にあるんですか?」


「いえ、マクシミリアン坊ちゃまだけでございます」


「他の王子様の部屋はどこに?」


「敷地中央にある宮殿の中にございます」


「なんで!」


 思わず大きな声を出したあたしに気がついたのか、マックスがドアを開ける。


「やあ、来たね。こっちこっち」


 階段の最上階の踊り場についている木戸は、手を振るマックスより少し小さい。

 王子様の部屋のドアにしては粗末なその扉をくぐると、中は丸い天井を持つ円形の部屋だった。


「階段を登るの、大変だっただろう? ようこそ、第五王子の部屋へ」


 マックスはそう言って、優雅に礼をとる。

 この礼は一昨日も見たっけ。

 言われてみれば、確かに王子様っぽいポーズだったな。


「あんたって、本当に王子様……だったの?」


 あたしの問いに、マックス本人よりウリカさんが先に答えた。


「勿論でございます。マクシミリアン様は、国王陛下のお血をひいた、れっきとした王子殿下でございますとも!」


「もしかして、今までずっと疑ってたの?」


「……ごめん」


 それこそ不敬罪で捕まりそうなくらい、失礼なことを言ったりしたりしてきた。

 でも一番失礼なのは、本人の主張を今の今まで信じなかったことかも知れない。


「仕方ないさ。むしろこの部屋に通されて、『王子』だって信じてしまうライラも変わってるよ」


 言われてみれば、そうかも。


 通された部屋の天井は一面青いペンキで塗られ、ところどころに白いモクモクしたものが描かれている。

 多分雲だろう。

 頭の上は青い空。明るい明るい青い空。


「これ、自分で塗ったの?」


「ああ。いいだろう? でも、そろそろ模様替えしようかと思ってね。今度は星空だ」

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