11 嚙み合わない二人
いい男談義で(主にアンネリが)盛り上がっていたところに口を挟んだのは、今まさに噂していたマックスだった。
「えっだっ誰っ? いい男ね、誰?」
「あー……ちょうどいいわ。とくとご覧あれ、こちらが件の詐欺師、マクシミリアン氏よ」
「私が詐欺師? ひどいなあ」
「あのっ!」
がっかりしたマックスとあたしの間に割り込んで、アンネリがにゅっと顔を出す。
「わ、私、ライラの友人で、アンネリと申しますぅ」
「そう、アンネリ嬢。私はマックス。本当はマクシミリアンだけど、ライラが『マックス』という愛称をつけてくれたから、マックスと呼んでくれたまえ」
「わかりましたわ。マックス様……」
「ちょっと、アンネリ!」
マックスにピッタリ顔を近づけるアンネリに、あたしは呆れる。
ちょっと後頭部を押したら、キスしそうな距離だぞ。
「なによ、ライラ。妬いてるのお?」
「はあ? 別に妬いてなんか……」
「アンネリ嬢。私はライラとすでにパンを焼いたぞ!」
「その『やく』じゃないし!」
マックスの天然なボケに突っ込みを入れる。
アンネリは一瞬気が遠くなったような表情をしたけれど、すぐに立ち直った。
「マックス様ぁ。私のこと、どう思いますぅ? 少しは可愛いって、思ってくださるかしらぁ?」
会った早々なに言ってんだ、こいつ。
会うたびに、化粧とおしゃれと男の話しかしない奴だと思ってはいたけど、節操がなさすぎて、見ているこっちが恥ずかしい。
あたしの嫌悪感など無視して、アンネリは「頬染め、上目遣いアンドくねくね」の必殺技を、惜しげもなくマックスにお見舞いする。
対するマックスもニコニコしながらアンネリを見つめてて、ふん、なんだかお似合いじゃないのさ。
「そうだね。アンネリ嬢は可愛らしい方だと思うよ。ハシバミ色の瞳がつぶらで愛らしいし、茶色の巻き毛がくるくるして羊みたいですね」
……マックスさんや。「羊みたい」って、それは女性への褒め言葉としては微妙なのではないかい?
さすがのアンネリも一瞬無表情になるが、気を取り直したのか再び笑顔になって、マックスに迫った。
「子羊って、可愛いですものね。それに瞳を褒められるのって、女にとってはうれしいものですわ」
「そうなんだ。……ライラ、君の濃い緑色の瞳もきれいだよ。黒い髪と相まって夜の森みたいな色合いだ」
くっそ。
マックスめ、あたしのコンプレックスを突いてきた。
魔法の民のほとんどは、アンネリみたいなハシバミ色の目をしている。
ハシバミは「知恵の実」。
昔、科学や機械化が進んでいなかった頃、魔女や魔術師は人々から「森の知恵者」と言われていた。
その知恵の証として、ハシバミ色の瞳を持つ者が多いのだという。
それに対して、あたしの瞳は苔みたいな緑色。
真っ黒な髪の色といい、魔女仲間の中ではすっごく浮いている色だし、皆に比べて魔術もあまり強くない。
使える力の種類も少ない。
義父さんは、なにかというと「森へ帰ってこい」って言うけど、そもそもあたしに魔女の素質はあまりないのだ。
押し黙ってしまったあたしを余所に、アンネリはますます科をつくってマックスに擦り寄っている。
「マックス様ぁ。ライラになんのご用事なのかしら? よろしければ、私が代わりにお引き受けいたしますわぁ」
「本当に? じゃあ、ライラと一緒に三人で行こうか」
「まあ。マックス様とでしたら、どこへでも参りますわぁ。それで、どちらに行きますの?」
「どちらっていうか、『吸血樹退治』に」
「…………はい?」
ここまでどうにかマックスに食らいついていたアンネリも、さすがに固まった。
「今、…………なんて?」
「吸血樹退治だ。地方ではもう何件も被害が出ている。どうにかして止めなければいけないと考えてマグヌス氏に相談していたのだが、ライラに加えてもう一人戦いに加わってくれるというのなら……」
「あら、わたくし用事を思い出しました。それではごきげんよう、マックス様、あとライラ」
ケッ。なーにが「ごきげんよう」だ。
金持ちのご令嬢みたいな、スカした挨拶しやがって。
あんたもあたしと同じ、南の森育ちじゃないか。
「あー……、行ってしまいました」
暢気なんだかトボケてんだかわからないマックスが、アンネリの去った方に手をひらひらと振っている。
「……追いかけなくていいの?」
「誰を?」
「誰って……」
思わずあたしはこめかみを押さえた。
どうしてこう、話が通じないんだ? この男。
「アンネリよ! 気が合ってるみたいだったし、それにその吸血樹とやらを退治するんなら、彼女の方が適任よ。あたしよりよっぽど魔力が強いんだから」
「へえー。……でも、マグヌス氏が推薦したのは君だよ。ライラ」
「そんなの、自分の身内だから押しつけやすいと思ったんでしょ? アンネリや他の魔女を推薦して、何かあったら彼女たちの親や親類が黙っていないもの」
「違うと思うよ、ライラ」
そう言ってあたしを手招きして、さっきまで座っていた席にもう一度座らせる。
アンネリが残していったお茶を脇によけて、給仕を呼んだ。
「私に熱いコーヒーを。あと……ライラはどうする? お茶のお代わりは?」
「それって、奢り?」
「勿論」
それなら、遠慮はしない。
「あたしはミルクティー。あとリンゴのケーキ一つ」
しばらく贅沢はできないと思っていたから、奢りと聞いてついケーキまで注文してしまった。
ホクホクして席に着くと、マックスが別人みたいに真面目な顔になる。
「では、打合せをしよう」
「はい?」
「吸血樹退治についての、作戦会議だ」
いやいやいや、聞いてないし。
お茶とケーキで懐柔しようっての?
そんな怖そうなことに?
「ごちそうさまでした。じゃあね」
そそくさと立ち去ろうとしたあたしの腕を、マックスが掴む。
「すまないが、もうこれ以上被害を出すわけにはいかないんだ」
「やだよ! どうしてあたしなの! あんた、本当に王子様だってんなら、王立軍とか兵隊とかに声かけたらいいじゃないさ! どうせ嘘だろうけど!」
「嘘って?」
ほんの少し後ろめたい気分で、昨日マックスをつけたことを告白した。
「あんた、お城の裏門で門番に邪険にされてたでしょ? あたし、見たんだから」
「そ、それって……」
マックスが驚きの表情を浮かべて、あたしを見る。
「心配して、私をこっそり見送ってくれていたのか! ありがとう!」
「違うし!」




