10 噂をすれば
「あー……それ、騙されてる。絶対」
「やっぱ、そうかなあ」
王都に帰った翌日、さっそくカフェのテラス席でお茶を飲みながら、友人のアンネリに一連のことを話してみた。
その答えが「騙されてる」だ。
「そりゃそうよ。だいたい私も『第五王子』なんて聞いたことないし」
「だよねー」
+ + +
あの後、二人で川沿いの道を戻っている途中で、案の定鉄道局員と警察官に出くわした。
変装させておいてよかった、と安堵する。
警官は手元のメモを見ながらあたしたちをジロジロ見たけど、特に何も声を掛けられることはなく素通りできた。
「あたしの予想通りだったでしょ?」
「うん。さすがだ、ライラ。やっぱり吸血樹退治には、君と一緒に行きたいな。だめ?」
「だめ! だめに決まってるでしょう? だいたいなんで、あたしなのよ!」
「しかし、マグヌス氏は『うちのライラが適任だ』って推薦してくれたよ」
「あんの、じじい……!」
義父さんが、あたしを推薦?
なに考えてんだ、くそ親父!
+ + +
「ちょっと、ライラ!」
「あ、な、なに?」
物思いから我に返って、目をしばたかせる。
目の前のアンネリは、ちょっとわざとらしく怒っていた。
小首をかしげて頬をうっすらと染めている。
これに上目遣いが加わると「可愛く」怒ったふりをする、アンネリお得意のポーズだ。
このポーズをとると、彼氏がデレデレするんだとさ。
「なに? じゃないわよ。人のことを呼び出しといてボーっとしないで。……で、その詐欺師、いい男?」
「はあ? いい男かどうか、詐欺に関係ある?」
「あーったり前じゃなぁい!」
アンネリは大袈裟なほどに、体をくねらせた。
「どうせ騙されるなら、いい男に騙されたいでしょお?」
もう少しで舌打ちしそうになったのを我慢する。
付き合っている男がいるのに、詐欺師にまで色目を使う気かよ。
というか声をかけられたのは、あたしなんだけど?
実際あたしだって、マックスの言葉を丸々信じているわけではない。
昨日は自分のアパートメントに戻る振りをして、こっそりマックスの後をつけたのだ。
あいつはちゃんと王城に入っていった。
とはいえ、マックスが入ったのは表の正門ではなく、小さい裏門である。
そこの門番に二言三言なにやら会話をして入れてもらっていたのだが、少し離れたところから見ているあたしにも聞こえる声で、門番が「さっさと入れよ」と言っているのが聞こえた。
いくら「いないも同然」に扱われているからって、王子様にあんなこと言う門番なんて、いる?
やっぱり王子様なんて嘘だよね。
義父さんはすっかり騙されているけど。
きっと城住まいの使用人か何かだと思う。
「ねえーえ、ライラ、どうなのよう?」
すっかり目の色を変えているアンネリを見て、あたしは悪戯心を出した。
「うん、いい男だったよ」
嘘じゃない。
見た目だけなら、いいセンいってたと思う。
……中身を考えなければ。
「ホント? どんな? どんな?」
食らいついてきたアンネリに、ちょっともったいぶってみせた。
「うーん、どうだったかなあ……そうねえ……」
「髪の色は? 顔立ちは? 王子様を騙るくらいなんだから、いいもの着てたんでしょうね?」
「勿論! そうね、銀髪でサラサラしてて、瞳は神秘的な紫」
「それで? 服は?」
「上等な毛織りのフロックコートを着てた」
「わあお!」
いよいよアンネリの目がきらりと光る。
「口でどれだけ『金持ちだ』って言ったって、着ているものが安物なら嘘をついている可能性が高いものね。その彼、王子様っていうのは嘘だとしても、そこそこ金持ちよ。で? 顔は?」
「うん、いい男だよ」
「もう、『いい男』にも、色々あるでしょう? 精悍な顔立ちとか、甘いマスクとかさあ。ねえってば、教えてよう」
「そうね、精悍ってタイプじゃないわね。どちらかというと美男子、かな」
「び・な・ん・し……! いいわあ、び・な・ん・し。素敵な響き……! ねえ、私にもその人紹介してよ」
いい男と聞くと見境がなくなるアンネリに、さすがに呆れてしまった。
「なによ、あんた。彼氏がいるじゃない。それに、いい男って言ったって詐欺師だよ?」
「別に結婚しているわけじゃないもーん。結婚するまでは、よさそうな男に色々ツバつけておかなきゃ」
「人にツバをつけるのは、不衛生ですよ。お嬢さん」




