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婚約破棄、感謝します!おかげで悪役令嬢だった私は辺境一の農場主です。元王子?ああ、食糧支援の順番待ちの列にどうぞ。  作者: 黒崎隼人


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第8章「農婦の奇策、王子の決断」

 ゲルトナー宰相の怒りは、私たちの想像をはるかに超えていました。自治領宣言は、彼にとって許しがたい反逆行為でした。「王子に与せぬばかりか、国そのものに牙を剥くとは。あの魔女、万死に値する!」そう叫んだ彼は、隣国へ向けるはずだった軍の一部を、こともあろうにこの辺境の地へと差し向けたのです。


 土煙を上げて進軍してくる、重装備の兵士たち。その数、およそ五百。対する私たちは、鍬や鋤を持っただけの農民が二百人ほど。誰もが、絶望的な戦力差に息を呑みました。

 しかし、私の心は不思議と落ち着いていました。


「皆さん、恐れることはありません。私たちの畑が、私たちを守ってくれます」


 私は住民たちに、あらかじめ立てておいた作戦を伝えました。それは、農業知識を総動員した、前代未聞の防衛策でした。


 宰相軍が、領境に築いた荷車のバリケードに到達しました。

「小賢しい真似を! 蹴散らしてしまえ!」

 指揮官が叫び、兵士たちがバリケードを壊し始めます。その瞬間でした。


「――今です!」


 私の合図で、バリケードの陰に隠れていた住民たちが、一斉にあるものを投げつけました。それは、特別に発酵させた、強烈な匂いを放つカボチャの腐敗液です。目や鼻を突く悪臭に、兵士たちは「うわっ!」「臭い!」と顔をしかめ、隊列を乱しました。


 混乱する敵軍が、次に足を踏み入れたのは、一見するとただのぬかるみに見えるエリア。しかし、そこは私たちが大量の堆肥と水を混ぜて作った、天然の落とし穴でした。重い鎧をまとった兵士たちは、次々と足を取られ、身動きが取れなくなります。


「な、何だこれは!?」

「進めん! 足が抜けない!」


 しかし、宰相の切り札は、訓練された騎馬隊でした。彼らはぬかるみを避け、硬い地面を選んで突撃してきます。その進路上には、私たちの宝である、広大なじゃがいも畑が広がっていました。

「畑を踏み荒らされても構いません! 作戦通りに!」

 私は叫びました。


 騎馬隊が畑に突入した、その時。地面に隠すように仕掛けておいた、固く乾燥させた豆が入った袋が、馬の蹄に踏まれて一斉に弾けました。それはまるで、無数のビー玉をばらまいたかのよう。馬たちは足元を滑らせ、次々と転倒し、騎手たちは馬上から投げ出されます。


 それでも、敵の歩兵部隊は、じりじりと私たちの本拠地である集落へと迫ってきました。いよいよ、最後の砦です。私は、集落の入り口に用意しておいた、最大の切り札の前に立ちました。それは、密閉された巨大な樽の数々。中には、発酵が進んだ大量の家畜の糞尿と作物クズが入っています。つまり、可燃性のメタンガスが充満した、即席の爆弾です。


「火矢を放て!」


 指揮官の号令で、火矢がこちらへ飛んでくる。

「――皆さん、伏せて!」


 火矢が樽の一つに突き刺さった瞬間、凄まじい轟音と共に、樽が大爆発を起こしました。爆風と、天地を覆い尽くさんばかりの強烈な悪臭が、宰相軍に襲いかかります。


「ひ、ひいいい! 魔女の妖術だ!」

「もう戦えるかこんな所!」


 兵士たちは完全に戦意を喪失し、我先にと逃げ出しました。武器を捨て、鎧を脱ぎ捨てて。最新の兵器でも、熟練の戦術でもなく、ただただ臭い、農業の副産物が、正規軍を打ち破ったのです。


 呆然と立ち尽くす指揮官と、残されたわずかな兵。そこへ、地響きと共に新たな一団が現れました。先頭に立つのは、見紛うはずもない、クラウス王子その人でした。彼は、私が辺境で時間を稼いでいる間に、王都で宰相派の貴族たちを一掃し、忠実な騎士団を率いて駆けつけてくれたのです。


「ゲルトナー宰相の使いか。貴様らの主は、国家反逆罪でまもなく捕らえられるだろう。武器を捨てて投降しろ!」


 クラウス様の威厳に満ちた声に、敵兵はなすすべもなく膝をつきました。

 こうして、戦争は回避され、私たちの戦いは終わりを告げました。


 後日、王都から逃亡しようとしていたゲルトナー宰相は、クラウス様の手によって逮捕されました。私の「発酵ガス爆弾」の噂は尾ひれがついて広まり、「緑の魔女は、大地を爆発させる力を持つ」と、異世界中の人々に恐れられることになったのは、少し予想外でしたが。


 クラウス様は、私の前に立ち、深く頭を下げました。

「……すまなかった。君を信じることが、できなかった」

「いいえ。あなたはあなたのやり方で、国を救おうとした。それで十分ですわ」


 私たちは、見つめ合いました。剣で国を正した王子と、鍬で民を守った元令嬢。進む道は違えど、互いのやり方を認め合った瞬間でした。そして、この国の復興のために、私の農業技術が不可欠であることは、誰の目にも明らかになったのです。

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