エピローグ
セレスティアは、緑の楽園で一番高い丘の上に立っていた。夕日が、彼女が愛するすべてを、優しいオレンジ色に染め上げている。眼下には、どこまでも続く豊かな畑と、人々の営む家々の温かい灯り。
「この世界に来て、本当によかった」
ぽつりと呟いた言葉は、風に乗って空に溶けていった。
悪役令嬢として断罪され、絶望の淵に突き落とされたあの日。あの時の私に教えてあげたい。あなたの未来は、あなたが思うより、ずっとずっと輝いているのだと。
その時、遠く王都の方角を見ていた瞳に、一つの影が映った。丘の麓を、馬に乗った一人の男がゆっくりと去っていく。クラウスだ。彼は、きっとまた、こっそりと様子を見に来ていたのだろう。そして、私がここにいることに気づいて、声をかけずに去っていく。それが、今の私たちの、心地よい距離感だった。
まるで、彼の声が聞こえたような気がした。
『いつかまた』
私も、彼に背を向けたまま、心の中で答える。
(ええ、また、会いましょう。盟友として)
二人は、それぞれの道へと歩き出す。振り返ることはない。
かつて「悪役令嬢」と呼ばれた過去は、もはや彼女を縛る呪いではなかった。それは、誇り高く、そして誰よりもたくましく生きる今の自分を形作った、輝かしい未来への、確かな礎となっていた。
物語は、ここで一旦の終わりを告げる。
しかし、彼女たちの未来は、この緑の大地のように、どこまでも豊かに続いていくのだろう。




