第11章「これが私の見つけた幸せ」
秋風が心地よい、収穫の季節。私の『緑の辺境領』では、年に一度の、最も大きなお祭りが開かれていました。大収穫祭です。広場には、山のように積まれたカボチャやじゃがいも、黄金色の小麦の束が飾られ、人々は自慢の収穫物を持ち寄って、その恵みに感謝します。
今年の収穫祭には、特別な客人が招かれていました。盟友である、クラウス国王その人です。彼は護衛も最小限にして、一人の友人としてこの祭りに参加してくれました。
「すごい熱気だな。王都のどんな祝祭よりも、人々の顔が輝いている」
民族衣装に着替えたクラウスが、目を丸くして言います。広場の中央では、村の楽団が奏でる軽快な音楽に合わせ、老いも若きも、男も女も、手を取り合って踊りの輪を作っていました。
「さあ、クラウスも! 突っ立っていないで!」
「え、いや、私は……」
戸惑う彼の手を、村の娘たちが強引に引いていきます。最初はぎこちなかった彼のステップも、皆の笑顔に包まれるうちに、次第に様になっていきました。私も、長老や子供たちと一緒に、夢中で踊りました。汗と土の匂い、焼きたてのパンの香り、人々の笑い声。そのすべてが、愛おしくて、かけがえのない宝物でした。
一通り踊り終え、二人で少し離れた丘の上から、賑やかな宴を眺めていました。彼の頬は、慣れない運動と、少し飲みすぎた果実酒のせいで、ほんのり赤らんでいます。
「……君は、本当にすごいな」
ふと、彼が呟きました。
「私が王都でどんなに贅沢な宴を開いても、これほど満ち足りた顔を民に見せることはできないだろう」
「そんなことはありませんわ。あなたは、この国に平和をもたらした。だから皆、こうして心から笑えるのです」
「そうだろうか……。いや、そうだな」
彼は、少し照れたように笑いました。そして、真剣な眼差しで私を見つめます。
「セレスティア。君は今、幸せか?」
その問いに、私は迷わず頷きました。
眼下には、黄金色に輝く私の畑が広がっています。そして、その恵みを分かち合い、笑い合う、かけがえのない仲間たちがいる。
「ええ。とても、幸せですわ」
私は、胸の奥から湧き上がる、温かい感情を言葉にしました。
「正直に言うと、あなたと離婚して、本当によかったと思っています」
少し意地悪な言い方だったかもしれません。でも、それが私の偽らざる本心でした。彼は、一瞬だけ驚いた顔をしましたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべました。
「……そうか。ならば、よかった」
彼は、視線を宴の輪に戻し、まるで自分に言い聞かせるように言いました。
「君が幸せでいること。君の領地が豊かであること。それが、この国の幸せに繋がるんだ。私は、王として、君のその幸せを守り続けなければならないな」
彼の横顔は、もはや私を独占しようとする男のものではなく、国と民の未来を見据える、立派な王の顔でした。
私たちは、もう恋人にはなれない。夫婦に戻ることもない。けれど、誰よりも深く、互いを理解し、尊重しあっている。
「これが、私の見つけた幸せの形なんです」
私がそう呟くと、彼は「ああ」と短く頷きました。
遠くで、また新しい踊りの曲が始まります。夜空には、満月が優しく私たちを見守っていました。




