つり革三國志
我らは……製造された日は違えど、死する時は一緒だ!
400年余りの平和を貪ったつり革界。しかし! 今、巨大つり革メーカー・カンテイコクの衰退により、つり革界は群雄が割拠する乱世へと突入したのである。
とある電車にぶら下がる三つのつり革、ゲントク、ウンチョウ、エキトク。彼らは、桃園工場で義兄弟の契りを交わし、カンテイコクの復興を掲げ立ち上がったのだ!カンテイコクの復興を阻止せんと、三本の前に立ちはだかる、モウトク、チュウボウ。カンテイコク復興の鍵を握る絶世の美女、チョウセン。果たして三本のつり革たちはカンテイコクの復興を成し遂げることができるのか!
「兄者! モウトクの野郎が来やがった!」
「何!」
ゲントクは、エキトクが指し示す方を見た。そこには丸々と太り、脂ぎった中年のおっさん、モウトクがいた。今までに奴の脂ぎった手で握られ、散っていった仲間のなんと多いことか。
「兄者、こっちからはチュウボウが来申した」
「何と!」
ゲントクは、視線をウンチョウが指し示す方へと転じた。そこには、ぼさぼさの頭を掻き、ふけを撒き散らす中年のおっさん、チュウボウがいた。今までに奴のふけだらけの手で握られ、散っていった仲間のなんと多いことか。
「は! あれは、チョウセン!」
ゲントクは我が目を疑った。チュウボウの後ろから、カンテイコクの復興の鍵を握るチョウセンが現れたのだ。整った顔立ち、美しい長髪、見る者を虜にする魅惑のボディ。彼女の、まるで上質の絹のような肌触りの手に握ってもらうことができれば、カンテイコクは復興を果たすことができるのだ!
「動きだした!」
モウトク、チュウボウ、チョウセンの三人は、ゲントク達の方へと近づいてきた。ピンチとチャンスが同時にやってきたのだ。
一番早く到着したのは、相変わらず頭をぼりぼりと掻き、ふけを撒き散らしているチュウボウであった。そして、エキトクを握ろうと、そのふけだらけの手をぬっと伸ばす。
「させるかってんだ!」
エキトクは気を放つ。エキトクの気は一騎当千。かつてチョウハンザカ電車で、たった一本で並み居る敵に立ち向かい、多くのつり革を救ったのだ。そんな気に押され、チュウボウはエキトクから離れる。
「ふん! どんなもんだい!」
「油断するな! エキトク!」
ウンチョウが叫ぶ。
「?」
「ニヤリ」
「!!」
不適な笑みを浮かべるチュウボウ。一度離れた手が、まるで舞いでも舞うかのような動作で、静かにエキトクに近づく。
「こ、こいつ!」
エキトクが慌てて気を放つ。しかし、慌てたためか、散漫な気しか出ない。
ガシッ!
チュウボウがしっかりとエキトクを握る。
「ぐわああああああああああああああ!」
「エキトク!」
「へへ……すまねえ……オイラはどうやらここまでのようだ。後は……頼んだ……ぜ……」
エキトクの気が消えた。
「エキトクゥゥゥゥゥゥゥ!」
ゲントクが叫ぶ。一方のウンチョウは、モウトクと対峙していた。
「悲しむ暇も与えてくださらんとは……モウトク殿、やはりあなたは……」
「ウンチョウ!」
「心配致すな、長兄……エキトクの墓前に、モウトク殿の首を供えてみせようぞ」
モウトクの手がウンチョウへと伸びる。
「はッ!」
ウンチョウの必殺技、セイリュウエンゲツトウが炸裂する。思わず怯むモウトク。だが、再び手が伸びる。もう一度セイリュウエンゲトウを放とうとしたその時! チョウセンの手がウンチョウへ伸びる。
「こ、これは! ついに我らの大願が!」
ウンチョウの気が緩んだ。その隙をモウトクは見逃さなかった。チョウセンを押しのけ、モウトクの手が一気に押し寄せる!
「し、しまった!」
ガシッ!
モウトクの手のひらの脂が、ウンチョウに染みこむ。こうなっては、いくらウンチョウでも助かる道はない。
「ぐふッ! む、無念……長兄すまぬ。桃園の誓い、守れそうに……ありませぬ……」
ウンチョウの気が消えた。
「ウンチョウゥゥゥゥゥゥゥ!」
ゲントクの頬を涙がつたう。ウンチョウ、エキトクとは、桃園の誓いより本当の家族よりも強い絆で結ばれていたのだ。彼らを失うということは、自らの半身を失うに等しかった。だが、悲しみにくれてばかりはいられない。チュウボウ、モウトクの毒牙が今度はゲントクに迫っている。立て! ゲントク! 二人の死を、二人の想いを無駄にしないために! 悲しみを、怒りを、刃に変えろ!
「うおおおおおおおおおおおおお!」
ゲントクが光に包まれる。思わず目を背けるチュウボウとモウトク。
「この、光は……」
チュウセンが、光に引き寄せられるように歩を進める。
「させるか!」
「させん!」
チュウボウとモウトクが、猛烈な勢いでゲントクに襲い掛かる。
「私は負けん。私の体、いや、魂には! ウンチョウ、エキトクがいる! 私は一本じゃない! はあああああああ!」
ゲントクを包んでいた光が刃の形になる。
「あの日の誓い、我が胸に! 闇を切り裂き、未来をこの手に!」
チュウボウ、モウトクが怯む。
ゲントクを包んでいた光が、より一層輝きをます。
「桃園創世漸ッ!」
「ぐぎゃああああああああああああ!」
チュウボウ、モウトクが消滅する。
辺りが光に包まれる。
「なんてきれいな光なの。これが、つり革の魂の輝き……」
「ウンチョウ、エキトク……私は……」
ゲントクの頬を再び涙がつたう。二本を失った喪失感がゲントクを襲った。
(なーに、泣いてやがんだよ!)
「エキトク?」
(泣きなさるな、長兄)
「ウンチョウ?」
(我らは死んだ。だが、魂はあなたの中に生きている)
(へへ、さっきそう言ってたろ? 自分でさ)
「ウンチョウ、エキトク……」
(我らは常にあなたと共にある。あなたは一本ではないのだ)
(そういうこと! だからよ、涙なんて早く拭っちまいな!)
「ああ……ありがとう」
ゲントクは涙を拭った。そして、チョウセンを見据えた。
「チョウセン、私を握ってくれるか?」
「ええ、喜んで」
ガシッ!
チョウセンの、まるで上質な絹のような肌触りの手がゲントクをしっかりと握った。
こうしてカンテイコクは見事に復興され、熱きつり革達の戦いは『三國志』という書物になり、遥かな未来になっても語り続けられたという。
我らは……製造された日は違えど、死する時は一緒だ!
完全にノリで書きました(笑
こんな三國志を書くのは僕だけでしょう。たぶん
「あほな事書くなこいつ」ってな感じで楽しんでいただければ幸いです。