女は男の後ろに下がって支えるべきだ。という王太子殿下と婚約解消しました! 深紅のドレスで自由を掴む公爵令嬢
「わたくしは赤が着たいの。わたくしはもっと派手な格好がしたい」
「お前は私以外の男性にその美しさを見せたいというのか?お前は地味な恰好をしていればいい。まがまがしい黒髪、我が王国では黒髪は不吉の象徴だ」
「はぁ?他国では大勢、黒髪がいるではありませんか。わたくしがこのルシル王国で珍しい黒髪だからって、そういう言い方はないでしょう」
アルディシア・ファレス公爵令嬢は、バレント王太子の婚約者である。
アルディシアは黒髪黒目で色が白いそれはもう美しさに自信がある令嬢だ。歳は17歳。
バレント王太子は金髪碧眼でこちらも美しい男性である。
お似合いの美男美女だと言われているのだが、
アルディシアはバレント王太子の事が嫌いだ。
何故なら、口煩いからである。
アルディシアは赤が好きだ。深紅のドレスはアルディシアの黒髪を引き立て、それはもう大輪の薔薇のように美しさを引き出してくれる。
だから深紅のドレスが着たいのに、バレント王太子が許してくれないのだ。
「女性たるもの、地味な恰好をするべきだ。母上を見ろ。慎ましくて優しくルシル王国で聖女とまで言われているだろう」
「確かに王妃様は慎ましい恰好をしていらっしゃって、福祉にも積極的で、素晴らしい方だと思いますが。でも、わたくしは赤のドレスが着たいのです」
着飾りたい。何で地味なドレスを着なくてはならないの?
バレント王太子は更にアルディシアに、
「それから私の事を敬え。そして立てろ。女なんぞ、男の一歩後ろに下がって仕えていればいいのだ」
「それは違いますわ。共に並び立ちルシル王国の為に働く。それが貴方の婚約者として、いずれ貴方の妻としてのわたくしの役割ではありません?」
「本当に生意気な女だな」
「貴方こそ、わたくしに慎ましくあれとか、一歩下がれとか、本当に窮屈で。嫌になってしまいますわ」
「だったら婚約破棄をしてやろうか?」
「ええ。かまいませんわ。婚約破棄、承りましょう」
「え?いや婚約破棄をしてやろうかと言ったまでだが」
「ですから、婚約破棄、承ります。有難うございます」
アルディシアはこれ幸いとばかり、背を向けて歩き出した。
王妃になればアルディシアのやりたいように、色々と働ける。
国王と共に並び立ち、輝ける。
そう思っていたけれども、バレント王太子は鬱陶しい。
婚約破棄万歳そう思ったのだ。
深紅のドレスを着たい。
わたくしは自由に華やかに生きたいの。やりたいようにやりたいの。
公爵令嬢として許されないとは思うけれども、それでも自由に生きたいの。
国王と公爵家との話し合いで、共に性格が合わないという事で、婚約は解消された。
深紅のドレスを着て、アルディシアは夜会に出るようになった。
歳は17歳。自分の目で見て新たな婚約者を探したい。
王太子と婚約を解消したアルディシアであったが、その美しさに釣書は多く寄せられていた。
釣書の中の人達に会って、しっかりと自分の目で見て相手を決めたい。
釣書の一人 ライド・クラリス公爵令息が近づいてきた。黒髪黒目の地味な男性だ。
「アルディシア嬢。私の釣書を見て下さいましたか?ダンスを一曲。私の人となりを知って頂きたい」
「ええ、喜んで」
ライドとダンスを踊ろうとしたら、スっと別の手を差し出されて、それはバレント王太子だった。
「君は私の物だ。他の男と結婚は許さない」
「あら、貴方との婚約は解消されたわ。わたくしは結婚相手を見つけないとならないの。もう17歳ですもの」
「それなら、私と新たに婚約すればよいだろう?」
「はぁ?何を言っているのです。貴方と性格が合わないから婚約解消したのでしょう」
「だから私は改めてお前と婚約を結んでやると言っているんだ」
「そういう女性を馬鹿にしたところが嫌いなのですわ」
「女性は男性の後ろを歩くべきだ。当然ではないか。現に母上は父上の一歩後ろに下がって、父上を支えている」
「何故、わたくしが貴方の後ろに下がって支えねばならないのです。共に並び立って王国の為に尽くすのが夫婦の在り方でしょう」
「それが生意気だと言うのだ」
「生意気で悪かったわね」
ゴホンと咳払いして、バレント王太子は、
「お前と再婚約してやる」
「お断りします。女性を馬鹿にした人と再び婚約なんて結ばないわ」
アルディシアはにこやかに、バレント王太子から離れて、
「さぁ、ライド様。ダンスを踊りましょう」
ライドとダンスを踊っている間中、ずっとバレント王太子の視線をアルディシアは感じていた。
翌日、ライドが、花束を持ってファレス公爵家に訪ねてきた。
まず、アルディシアの両親であるファレス公爵夫妻に挨拶をし、
「私は昨日、アルディシア嬢とダンスを踊って、素晴らしい令嬢だと再認識致しました。アルディシア嬢と婚約を結びたい。今日は申し込みに参りました。もし、承諾して下さるのなら、今度は両親を連れて参ります」
父ファレス公爵は、
「君は確か前に婚約者がいたと聞いていたが」
「恥ずかしながら、浮気をされまして婚約破棄を致しました。他の種の子を産んだのでは困りますので」
ファレス公爵夫人も扇を手に頷いて、
「托卵されたら困りますものねぇ」
アルディシアはライドに向かって、
「わたくしはまだ貴方の事を知らないわ」
「今日、少し、お話をしませんか。私の事を知って貰いたい」
「そうね。テラスでお話しましょう」
ライドと共にテラスで話をする。
ライドはアルディシアに、
「君の深紅のドレス姿はとても美しくて。いつも地味な紺のドレスを着て、王太子殿下と夜会に出席していなかったかい?」
「王太子殿下の趣味ですわ。わたくしは深紅のドレスが好き。わたくしの黒髪にとても映えるのですもの。王太子殿下は女はいつも男の後ろを歩くべきだって。わたくしは並び立って、共に走りたいの。女だって男並みに働くべきよ」
「成程。王妃様が国王陛下の後ろに立って控えめな方だからね。王妃様が王太子殿下の理想なのだろう。我が公爵家の為に君が私と並び立って役に立ちたいというのなら大歓迎だ。私はこの通り地味な見た目で。君みたいな華やかな女性が社交界で輝いて、私を引っ張っていってくれるのなら、私としてはとても嬉しいかな」
「出過ぎだとは思いませんの?」
「勿論、引っ張られるだけじゃない。私も君と共に走りたい。そう思っているよ。精力的な女性は私にとって理想だ。共に走ろう。共に輝こう。共に高みに登ろう」
嬉しかった。アルディシアの気持ちを解ってくれている。
そんなライドの心が嬉しかったのだ。
「貴方からの婚約の申し込み、受け入れたいと思います。父も母も反対しないわ。貴方とならわたくしは輝ける。共に高みに向かって走りましょう」
立ち上がってライドの手を握り締めたら、手の甲に口づけを落としてくれた。
心から幸せを感じた。
ライドと婚約を結んでから色々と出かけた。
ライドは精力的に、経験したがる人で、同じくアルディシアも経験したかったから。共に色々と経験をして楽しんだ。
市井へ一緒に出かけて、人々の生活を見て見たり、どうしたら生活の質をあげることが出来るか討論したり。
楽しかった。
いつの間にか、ライドの事が好きになっていた。
この人となら一緒に高みに登っていける。一緒に走っていける。
ライドと婚約を結んでから、三日後、夜会に出席した。
深紅のドレスに赤薔薇を頭に飾って、ライドは黒のタキシードを着て、エスコートをしてくれて。
バレント王太子が近づいて来て、
「婚約を結んだんだって?」
「ええ、こちらのクラリス公爵令息と。わたくしクラリス公爵家に嫁ぐ事になりましたわ」
「君は王太子妃に、先行き、王妃になりたくないのか?」
「だって貴方の後ろについて、支えるのは嫌ですもの。わたくしは共に並び立って走っていきたいのですわ」
「そこが生意気だ。女は男の後ろに下がって、支えるべきだ。だから男は女を守ろうと力を尽くす事が出来る」
「わたくしは男性を、夫を守る位に強くありたいのです。守られるだけの人生なんて嫌」
「私は守りたいんだ。君を。それなのに」
「貴方とは婚約を解消致しました。もう二度と、関わらないで下さいませ。わたくしはライド様と共に人生を走っていくことに致しますわ」
バレント王太子はアルディシアに、
「解った。君の幸せを願っているよ。アルディシア」
そう言って背を向けて去っていった。
アルディシアはライドの手を取って、
「さぁ、わたくし達も参りましょう」
ライドは頷いた。
二人でフロアの中央でダンスを踊る。
後悔はしない。
後ろに下がって生きる人生なんて嫌。
わたくしは共に高みに向かって走っていきたいの。
深紅のドレスを着て愛する人と踊ることが出来る幸せをアルディシアは心から感じるのであった。
後に二人は結婚した。
結婚式には何故かバレント王太子から豪華な祝いが届けられた。
ライドはしみじみ、
「あの人はあの人なりに、アルディシアの事を愛していたのかもしれないね」
と言われたが、アルディシアは、
「でも、喧嘩ばかりでしたわ。あの人の考え方がわたくし理解できなくて、貴方と結婚できてわたくしは幸せですわ」
そう、考え方が合わない人と結婚しても不幸なだけ。貴方と結婚出来て本当にわたくしは幸せ。
アルディシアは心からそう思った。
バレント王太子は後に他の公爵家の令嬢を妻に迎えた。
彼女は控えめな女性で、バレント王太子との仲は良かったようである。
夜会では緑の地味な色のドレスを着てバレント王太子の後ろに立っているような女性だから。
でも、時々、夜会でバレント王太子の視線を感じるアルディシア。
アルディシアは気にしない事にして、愛しい夫ライドと深紅のドレスでダンスを楽しむのであった。
とある変…辺境騎士団
「坊やだからだろ?あのバレント王太子」
「そうだな。マザコンの坊やだからな。屑ではないな」
「坊やだから連れていけないな」
「残念だな。今度こそ美男の屑を」