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止まった針が動いた日



(めざまし時計の音)



カチッ)(ベルを止める)




同じような景色を繰り返す日々。

喜怒哀楽のどれでもない朝に、そっと目を開ける。


今日も変わらない、嫌でも目の前に広がるのは 散らかった部屋...



誰でもない...自分に足りない余裕と、できるのなら時間が欲しい。



適当な朝食を摂って、スーツに着替え 慌ただしく靴を履いて

ガチャガチャと荒い手つきで鍵を掛ける。



駅まで走って、やっと電車に間に合ったわたしは...



佐々城(ささき) (るい) 22歳 会社員 


両親と弟が一人います。



毎日残業をしてから帰宅するのが日課になっていて、

断ることもできません。

もちろん、自分の意見を言うときはあります が...


上司はとても頑固で、偏りのある思考を持っている。

持っている事については人の性格や個性にあたるので他者に人格をどうこう言う権利はないのですが...


残業がというより、入社したばかりの新人に対しての言動がよろしくない...

パワハラに見当すると新人や若い社員が口にしている。

「またか...お前向いてない。」や「仕事もできないなら意味がない」

「そんなだからダメなんだよ!」など、なんでもダメ出ししては、褒められる事がない。



そんなわたしは、入社して一年のまだまだ新人。


同じような事を言われた経験ありなので、同僚に共感します。


今日は、会社の大イベントであるプロジェクトの企画をわたしたち新人が考える事

が決まり、只今(ただいま)残業確定の難航会議を開催中です...。



佐「というわけで、たくさんの人に知ってもらうため プロジェクターを使用したPR映像を流し、地元の人達と協力型で行うのはいかがでしょうか?」



同僚・男性「はい (挙手) 俺は、カラオケ大会とかそういう人脈を広げるような、人間関係が深まるみたいな企画を提案したいんですけど、」


同僚・女性「はい! (挙手) それだと、ただの忘年会みたいで、大プロジェクトとしては会社に貢献できないと思いまーす」


佐「(なんでか学生の文化祭みたいに感じるんだけど...この人達はプロジェクトの意味を理解していない...。まぁ、わたしもだけど。)」



会議すること2時間半...



気づけば会議は休憩を除いて、約4時間


同僚達は、「今日推し活あるんで!お疲れさまでした」「じゃあ、お腹すいたんで帰ります。おつかれした。」とわたし一人を残して帰ってしまった...



佐「マジ...かぁ...今回も一人で考えるのね。

たまには残業なしで、定時に帰れるとありがたいんだけどなぁ...

はぁ...(ためいき)」


そう、この前も 一人で残業していたときに「あれ?また残業?っはは!残業慣れしてきたよな~。それだけ仕事できないって事だから、まぁがんばれ」と

上司は言い残して帰宅。


残業慣れなどしていない。というか、むしろ褒めてくれ!いや、ねぎらいの言葉とかかけてくれるものではないのか?...いやいや、そもそもこの思考のわたしが間違っている?


企画を一人で作り上げて、頑張っているのに対してがんばれと言われ...

しまいには、「お前面白くないよ。」と人格否定のような言動を向けられた。

同僚がパワハラというのも分かる気がする。



このあと、なんとか企画をまとめ プロジェクトの企画書が完成。

大イベントは成功すること間違いなしだと上司は勝手に期待していた。


わたしは、へとへとになりながらようやく帰宅。それだけ頑張ったのだきっと


後日、プロジェクト発表を控えているため 早めに就寝。




わたしな企画案は、上司以外賛同。

なぜか、上司には刺さらなかった...

また、「なんか面白くない。お前のは面白くないんだよな」って否定言動から入る。


上司だけが、納得いかないまま企画案は通り 大イベントは成功。

社長がとても喜んでくださって、「素晴らしい企画をありがとう!」とこの会社に入社してからはじめて褒められた。


社内の人間関係や上司の言動をなにも知らない社長に、上司は嬉しそうに

「ありがとうございます!わが社の誇りです!」とかなんとか

ごまをすって 別人のようだった。



大イベント終了後、会場の片付け作業を手伝っていると

上司ともう一人、同僚の男性がなにやら話しているようだった。


わたしは、また嫌なこと言われてるんじゃないかって思って

声をかけようとした時、耳を疑う会話を聞いてしまい動けなくなった。



同僚・男性「そうなんですよ!帰っていいって言われて。

手柄を横取りされたというか、俺の案を盗まれて...仕事できないなら帰れって」



上司「それはほんとか! 失敗したな~佐々城に仕事任せた俺の責任だ。

お前がそんな頑張ってたなんて知らんくてな...。」


佐「え...?...どういうこと?(小さい声)」


上司「誇りなんてもんじゃないな...お前の努力が報われないな。」


どうやら、同僚の一人が 上司に気に入られようと嘘をつき、今回のプロジェクト企画をわたしに取られた。自分が勝手に帰りますって帰ったのにも関わらず、

盗まれた。残業した。と話を盛り、しまいにはわたしは「人の努力を無にし、手柄を横取りした最低な人」になっていた。



わたしは、バカバカしくなり 涙目になりながらもその場を静かに立ち去った。



撤去作業は無事に終わり、その日は定時に帰宅。




次の日、会社に行くと 周りからは冷たい視線が向けられ

上司に呼び出され、「お前は最低な人間だ。人の手柄を横取りしてまで、会社に貢献したかったのか?あいつの努力を無駄にするのか!」と説教が始まり、

自分の今までを白紙にされて、誰にも気づかれず会社のために辛いことも経験として、否定されようがここまで頑張ってきた。のにも関わらず、何も知らない

何も見ていない上司は、どうして簡単にも同僚の嘘を信じれるのか。


わけがわからず、退職を決意。

入社してまだ一年だった...それでも、間違った人達の元で働く自分が仮面を被って偽ってまで働くのはバカバカして 自己嫌悪に陥る。



お世話になりました。と退職届けを出し、最後に社長にも挨拶をして会社を去った。

社長は、社長だけは、残念だ。と 寂しそうなまなざしでわたしを見てそう呟いた。




会社が遠く見えた頃、橋の真ん中まで着いた。


押し殺していた感情が一気に溢れ、人目を気にする余裕すらなく

泣き崩れて、ただただ泣き続けた。



気づけば辺りは薄暗く、人気(ひとけ)のない道を 重い足取りで家に帰った。



虚しい気持ちにご飯が喉を通らない。

つらく、今は幸福さえもどこへやら...

数年前に買った時計も不注意で落としてから壊れて動かない。

壁にかけられた止まった時計を眺めては、自分のダメさに落ち込んで、

気分を変えようとテレビをつければ、会社員が主役のドラマが放送されていた。


ただただ泣けてきて、また込み上げてくる。

ドラマの中はこんなに、幸せそうで 笑っている会社員がいるなんて...。


止められない泪に、感情に流されるまま泣いていると、急に周りが静かになって 触ってテレビを消してしまったのかと思い、ふと見ると、テレビ画面が止まっていた。


ついに、テレビまでも壊れてしまったのだと

ためいきをついていると、


カチッカチッと時計の音が聞こえてくる。



時計を見て見るも、動いていない。だって壊れているから...


きっと精神的なダメージで幻聴が聞こえたに違いない。


もう寝ようとすると、ガチャンと玄関の方から音がした。


すると、人が入ってきた...!


驚いて声も出せず、ここで死ぬのだと思い目をつぶる。


「時間、欲しいんでしょ?」


男性の声が聞こえ、目を開けた見ると

美しい若い男性がわたしの泪を手で優しく撫で、そう言った。




佐「だ...誰ですか?」恐る恐る質問すると、



謎男「俺?うーん。頑張ってる人の味方?ってところかな

あぁ...怪しくないからね!」


佐「人の家に不法侵入してる人に怪しくないって言われても、説得力ないんですが」


謎男「ごめんなさい。勝手に入ったのは謝るけど、きみ、泣いてたでしょ?

社会のゴミに潰されたんでしょ?」


いきなり人ん家に入ってきた上に何言い出すのか、

誰なんだろうこの人。


佐「ゴミって、そんな言い方...  確かに嫌なことはありましたし、間違いに気づかない人の元で働いてられなくて、そんな自分が嫌いで...バカバカしくなってやめてきましたけど...。というかあなた、誰なんですか?勝手に...」



謎男「だから勝手に入ったのはごめんって! 

それにさっき言ったじゃん!w俺は、頑張ってる人の味方だって...」


佐「名前を聞いてるの!」


わたしは、謎男の話中に割り込んで名前を聞いた。

けど教えてはくれなかった...。「 そのうちね」とそらされて、


謎男は、指をパチンッと鳴らすと 時計の音が聞こえてくる。

また幻聴なのか、すると謎男はニコッと笑うと「見てみなよ」そう言って

壊れた時計を指差す。


壊れていたはずの時計が、カチッカチッとまるで買ったばかりのように元気に針が動いた


佐「どうして...!?」


謎男「んじゃ!また来るね」



お邪魔しました~!と言い残して玄関からまた出て行った。



次の日、めざましがいつも通り鳴る。

カチッと止める。


佐「あ!会社 ちこく...ってやめたんだった...。」



ためいきをついて、二度寝しようとするが

眠れない。


昨晩からなにも食べていないため、お腹がすいていた。


会社をやめてから、時間に余裕ができたのか今日はちゃんとした朝食を作って食べる。テレビを見ながら、朝食をもぐもぐとたべ、

昨晩の事を思い出す。


あの人は誰だったのか、考えてもわからない。

ふと、時計を見ると 針は止まっている。落として壊れたときのまま...


あれはきっと夢だったんだろう。疲れていたし精神的にも辛い状況だった。


朝食を食べ終え、私服に着替えると

スマホでバイトや仕事を探す。



この時は知らない。

わたしの人生観が大きく変化するような出逢いに遭遇することを...



※これらの登場人物やストーリーはすべてフィクションです。


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