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6話_水上格闘技は命懸け3

挿絵(By みてみん)

「お待たせいたしました! これより毎年恒例『ピチピチプルプル嬉し恥ずかし水上格闘大会』の開催となります! 司会進行は僭越ながらこの私――笑顔100%果汁でおなじみのパット・カーニーが務めさせていただきます! そして解説には大魔導士――アルベルト・バーゲンさんとメルルさんにお越しいただいております。アルベルトさん! メルルさん! 宜しくお願い致します!」


「皆の者ぉおおおおおお! 水着ギャルは好きかああああああああああ!」


 アルベルトの絶叫に大勢の観客が地鳴りのような歓声で応える。満足そうに頷くアルベルトに対しメルルが不満げに唇を尖らせる。


「ぶううう。あたしも出たかったですう。おじいちゃんは意地悪ですう」


 解説者から一言ずつ貰い、司会者が「有難うございます」と進行を続ける。


「それでは早速大会ルールを私から簡単に説明させていただきます! 皆様、眼前にあるプールにご注目ください!」


 楕円を描くように設置された観客席。その中心にある縦100メートル、横25メートルの巨大なプール。溢れんばかりに水が注がれたそのプールには縦横5メートルほどの無数の板がプールを覆いつくすように張られていた。


「各選手はこのプールに浮かんでいる板上で戦っていただきます! 板から落下した選手は失格、相手選手の勝利となります! なお試合中はこちらで用意したビニール製の武器で戦っていただきます! 相手選手に直接触れるなどの行為は禁止となりますので選手の皆様はご注意ください!」


 観客席からまた一際大きな歓声が上がる。


「どうやら皆様待ちきれないようなので、早速第一試合を始めましょう! 第一試合の選手入場してください!」


 司会者の合図とともに二人の女性がプールに張られた板の上を進んで中心へと立つ。


「それでは選手を紹介させていただきます! Aサイド選手はグラビア界の革命児! その誰もがうらやむ美ボディに心奪われた男性は数知れず! グラビア界の女王が水上格闘技でも天下を狙う! ユーニス・ローファァアアアアアアアアアアアア!」


 Aサイドにいる長身の女性が観客たちの声援に笑顔で応える。


「対するは、ビールの売り子から一流アイドルの階段を駆け上がったシンデレラガール! その無邪気で愛らしい笑顔はこの戦場において華々しく咲きほこれるか! カリスタ・デバーソオオオオオオオオオオン!」


 Bサイドにいる小柄な女性が体をクルクル回しながら観客席に手を振る。


「選手のお二人は武器を構えてください! それではレディ――ファイ!」


 開始の合図とともにプールに立つ二人の選手が武器を振り上げる。


「えい! えい! やあ! きゃあ!」


「いやん! あん! えいやあ!」


 ぺしぺしとビニール製の武器が両者に叩きこまれる。二人の激しい攻防に観客たちのボルテージもどんどんと上昇していく。


「きゃあ! 足滑らせちゃった!」


「ああん! 水着が取れちゃううう!」


 取れかけた水着を直そうとしたAサイドの女性がバランスを崩して板から落下する。


「おおっと! ここでユーニス選手が舞台から落下した! ここで試合終了となります! 勝者はカリスタ選手ぅうううう!」


 尻餅をついていたカリスタがペロリと舌を出しながら恥ずかしそうにピースした。


「いやあアルベルトさん! 開始早々白熱した試合でしたね!」


「うむ。両者ともに素晴らしい戦いだった。まあ試合内容はよく覚えとらんが、とにかく色々と良かった。眼福眼福」


「次の試合も楽しみですね! それではどんどん参りましょう! 第二試合――」


 司会者の紹介を経て、また若い女性二人がプールの上でビニール製の武器をぶつけ合う。


「この、この、負けないんだから!」


「ちょっと! 強く叩きすぎじゃない! もう許さないんだから!」


「きゃああ! 何するのよ! ちょっとやめて! 変なところさわんないで!」


「おっとこれはいけません! 選手同士の直接的な接触は禁止されております! 二人とも離れてください!」


「まあまあ少しぐらい良いではないか」


「アルベルトさんの許可が下りたので続行しましょう! おおっと、ここで決着だ!」


 一人の選手が逃げようとして板から足を踏み外して水に落下する。第二試合もつつがなく終了して司会者が声をさらに高める。


「どんどん参りましょう! 第三試合! 両選手入場してください!」


 ようやく出番が回ってきた。私はプールサイドからゆっくりと歩いていく。プールに張られた不安定な板の上。そこを危うげなく進んで行きプールの中心で立ち止まる。


「Aサイド選手はフリーアナウンサーとしても大活躍! しかしスーツに隠されたそのダイナマイトボディは言葉よりも雄弁に彼女を語る! 皆様の目と耳に癒しを届けたい! アイリス・マックウィイイイイイイイイイイイイイン!」


 ビキニ姿のポニーテールの女性が観客たちの声援に笑顔で応える。


「対するは、なんと騎士団からの参戦となります! 麗しき姿とは裏腹にその瞳に宿る高潔の眼差しは勝利の一点にのみ注がれる! 知る人ぞ知る! 先日行われた第一回スポーツ王頂上決定戦の準優勝者! ドロシー・ヒルトォオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 わああああ! と観客席から歓声が上がる。私は着なれないビキニに違和感を覚えながらもビニール製の剣を握りしめて相対する女性を見据えた。


「それでは両選手とも準備は宜しいですね! レディ――ファイ!」


 開始の合図とともにポニーテールの女性がとてとてと板の上を走る。


「えいやああああ」


 ビニール製の大きなハンマーを振りかぶり迫ってくるその女性を眺めつつ――


「遅い」


 私は左拳を足元に叩きつけた。


 パンッ! とプールに大きな水柱が上がる。水面に浮かんでいた板とともにポニーテールの女性が弾けて宙を舞った。私は足元の板を蹴りつけて跳躍。一瞬にしてポニーテールの女性の目の前まで移動する。


「――な!?」


 ポニーテールの女性が驚愕に目を見開く。表情を強張らせている彼女に私はビニール製の剣を叩きつけた。


 火薬が破裂するような甲高い音とともに剣に打たれた女性が急落下する。そしてなんの抵抗もできないまま水に着水した。またも大きな水柱が上がる。私はまだ水面に浮かんでいる板の上に着地して女性の落下地点に目を向けた。数秒の間を挟んで、ぷかりと女性の尻が浮かんでくる。


「君のためにもはっきり言おう。君はまだ戦場に出られるような実力ではない。しばらくは稽古に注力し、十分な実力をつけた後にまたこの舞台に立つといい」


 あれだけ大騒ぎしていた観客たちが静寂する。しばしの間。司会者が「こほん」と咳払いして震えることで話し始める。


「えっと……試合終了。ドロシー選手の勝利……です。あの……なんといいますか……す、すごい試合でしたね。アルベルトさん」


「……ぬう」


 アルベルトが額に汗を浮かべながら言う。


「あやつ……大会の趣旨を全く理解しておらんのではないか?」


 アルベルトがよく分からないことを話している。だがとにかく勝負には勝った。私は剣を腰に収めてプールサイドへと戻っていった。






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