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1話_大魔導士はご老体1

挿絵(By みてみん)

 都市ルンビーズ。人口一万人以上を抱える国内でも有数の大都市。そんな街も二十年間と過ごしてきた私にとってはもはや自宅の庭のようなものだ。もっとも庭を持てるような大きな家に住んでいるわけではないが。とにかく感覚としてはそうだ。


 それだけに目の前にある見慣れない路地には私もつい頭を捻ってしまった。


「この辺りは通勤にも利用しているんだが……こんな路地あったか?」


 あったかも何も、現実として目の前にあるのだから疑うことそれ自体馬鹿馬鹿しいか。


「……このメモによればこの路地をまっすぐ進んで行くんだったな」


 確認のために一人でブツブツと呟きながら私は路地に足を踏み入れる。別段変わった路地ではない。煙草の吸殻や割れた空き瓶がそこらに捨てられている普通の路地だ。強いて特徴を上げるなら路地の距離が長いことか。女性が一人歩きするにはやや不安がある。


「私にその心配はないがな」


 二十歳のうら若き女性。客観的には私もまた警戒すべき人間の一人だろう。だがこと私においてそのような警戒など必要ない。いくら無分別のチンピラであろうと――


 帝国騎士団の制服を着ている女性を襲うような命知らずな真似はすまい。


「ようやく出口か」


 狭い路地を抜けて広い通りへと出る。私はその場に立ち止まりぐるりと周囲を眺めた。


「どこだ……ここは?」


 民家と思しき建物が並んでいる通り。どこかの住宅街だろう。だがその景色にまるで見覚えがない。二十年間と暮らしてきた街にまだ見知らぬ場所があったのか。


「それにしても奇妙な建物だな?」


 街ごとに建物の様式と言うものはある程度統一されるものだ。だがどういうわけか路地を抜けた先にあるこの一帯にはルンビーズはあまり見かけない様式の建物が並んでいた。


「昼時だというのに人影もないし……なんだか見知らぬ街に迷い込んでしまったようだ」


 まあそんなことあり得ないわけだが――


「っと、ぼんやりしている場合じゃないな。約束の時間が迫っているんだった」


 私はメモに書かれた簡易な地図を確認しつつ通りを歩きだした。普段よりも足が速い。緊張しているのかも知れない。なにせこれから会う人物は歴史に名を連ねる偉人なのだ。


「大魔導士アルベルト・バーゲン……か」


 約五十年前に人類を救済したとされる英雄。そのような人物がこの街に暮らしているとは意外だった。もしかするとどこかの通りですれ違ったこともあったかも知れない。


「失礼なく振舞えるだろうか……私は礼儀作法にはあまり自信がないのだが――」


 ここで膝が崩れ落ちる。


「……あれ?」


どうしてだろうか。体が動かない。いや体が動かないだけじゃない。呼吸すらもできない。まるで透明な誰かに首を絞められているかのように。


「か……は……は……ん……」


 徐々に体が重くなる。立ち上がることすらできないほどに。空気全体が鉛に変化したようだ。言いようのないプレッシャー。今すぐにでもこの場を立ち去りたい。この場から消えてしまいたい。だが体が動かない。どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい。


 そうだ。


 私は携帯していた剣を引き抜いた。刀身が銀色に輝いている長剣。この剣が私を救ってくれる。私は安堵して()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ようやくこの場からいなくなることができる。ようやくこの苦しみから解放される。私は晴れやかな気分で剣を喉に押し当てて――


「やめておけ」


 声が聞こえた。直後に全身を押しつぶすような奇妙なプレッシャーも消える。剣は喉を引き裂いていない。直前で誰かに腕を掴まれて静止させられたためだ。私は朦朧とする意識の中で自分の腕を掴んでいる何者かを見やる。逆光で顔が見えない。だがその声や背丈からまだ若い――恐らくは自分の同年代の男性だということだけは分かった。


 そして私は意識を失った。





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