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殺し屋ジョオは生きている

作者: らすく

 ===== ザッザッ =====

 ブーツが雪を踏みしめる音が、寒い空気に吸収されていく。

 その足音の主は若い女だ。彼女はしっかりとした分厚いロングコートを羽織っている。

 ===== カランカラン =====

 そこに女は入店した。


 (ほう。)

 恐らく店内にいる数人が彼女を見て、心の中でそう思ったのではなかろうか。

 店の客は男だけだ。マスターは渋い年配の男性、それに20代くらいの女性の店員がいる。ここはあまり大きくないバーだ。

 ハッキリ言って、若い女が1人で入るような店とは思えない。だがそんなことは、この女にとっては、どうでも良い事なのだ。そして・・・。

 「おおーーーー!」

 思わず男達は歓声に近い声をあげたのであった。勿論その対象は、その若い女である。彼女は羽織っていたコートを脱いで、そこにあったコートハンガーに通した。そのしっかりとしたコートに隠れていたのは・・・・。

 ロングブーツにミニスカート、レザージャケットを着た、いわゆる男受けしそうな感じの娘だった。あくまでも男性目線で見た限りではあるが・・・・。しかし周囲のそんな反応など、彼女は意に介さなかった。


 ===== カタッ =====

 果たして若い女は、マスターの目の前のカウンター席に座った。当然マスターは女と目が合った。

 「初めてですね、お客さん。」

 自分の孫くらいの娘に対しても、極めてマスターは紳士的に振る舞うのであった。

 「そうね。」

 素っ気ない相槌だ。若い女は落ち着き払っている。こんな感じで、本当に間が持つのであろうか。周りが心配してしまいそうだ。

 「何になさいましょうか。」

 タイミングの良い助け舟が如く、女性店員が注文を取る。

 「コークビア。」

 若い女は簡潔である。

 「わかりました。」

 女性店員はニコッと笑った。コークとビアーの組み合わせのカクテルが、女らしからぬからか。それとも・・・・。それはどうゆう意味なのか、その若い女にはわからない。

 改めて言うが、この若い女にこのバーは似合わない。酒を嗜むなら、また違う店があったであろう。恐らく何か別の目的があるのであろうか。そのように詮索したくなる要素が、この若い女にはあった。


 「おい、ねーちゃん。こっちこいよ。」

 そこで絵に描いたように、柄の悪そうな男が彼女に声をかけてきた。

 だが若い女は、完全に男の声を無視したのだった。当然その結果は・・・。

 ===== ガタン! =====

 「おう!このアマ!何をお高くとまってんだ!ああ!?」

 ズカスガと男は、若い女に迫ってきた。そして男は彼女のレザージャケットの襟を、ムンズと掴んだのであった。そして次の瞬間・・・・。

 ===== ダダーン!! =====

 男は宙を舞い、床に叩きつけられたのだった。

 「ヒュー!」

 女性店員はお道化たように振舞った。なんと若い女が、その柄の悪そうな男を投げ飛ばしたのである。

 「お客さん強いんだねえ!」

 若い女の傍にいた女性店員は、彼女の耳元で遠慮なく大きな声で囁いた。そして・・・。

 「アンタもね・・・・。」

 若い女は小声で呟くように言った。

 「ふうー。」

 その若い女は、何か諦めに近い表情を浮かべたのであった。それは何故なのか、いまいち分からない。


 ===== ザッ =====

 目にも止まらぬ速さとは、正にこの事を言うのではなかろうか。若い女は素早く自分のスカートをめくり、装置したレッグホルスターから拳銃を抜き構えたのだった。余りの急な展開に、酒場の男たちは口を開ける事しかできなかった。

 そしてその銃口の先には、このバーのマスターがいたのである。

 「お嬢さん・・・・。」

 マスターに動揺の色は見えない。どうやら彼は、この若い女の正体に気が付いていた様子だ。それもそのはず、この老人の正体は伝説の・・・・。

 「観念してね。」

 若い女は勝利を確信していた。自分よりも後に銃を出して、敵う相手などいる筈がない。そう彼女は思っているのだから・・・・。しかし・・・。

 「銃を降ろすんだ。死にたくなければ。」

 マスターの眼には、正に一点の曇りも無かった。


 「な・・・・。」

 明らかに自分の方が有利な状況であるのに、この老人は全く慌てる様子はない。銃を構える女は自分の脚がガクガクと震えているのを、まだ気がついていなかった。汗が彼女の太ももを伝っているのが、目視で確認できる。

 そう。明らかなのだ。この老人の力量は、彼女を遥かに凌駕している・・・。

 そして若い女は悟った。もう自分が引き金を引く前に、逆に自分が脳天を撃ち抜かれるであろう、という事を・・・・。自分が伝説の殺し屋・ジョオを、決して殺す事は出来ないという事を・・・。

 しかし若い女は身動きが取れない。最早どんなアクションを起こそうが、自分は命を失う事は明白である。できる事と言えば、銃を降ろすくらいだ。しかしそうしたところで、命を見逃してくれる保証などない・・・。だが、突然その均衡は破られた。


 ===== ズガーン!! =====


 とても大きな銃声が鳴り響いた。そして一人が脳天を撃ち抜かれ、床に倒れた・・・。

 「は、はわわ・・・・。」

 若い女は銃を降ろし、その場にしゃがみ込んだ。さらに不覚にも床に失禁してしまったのであった。何故なら、伝説の殺し屋の正体を拝めたからなのである。さらに言うと、それは若い女の推測とは、また違っていた。


 床にはマスターが脳天を撃ち抜かれ絶命していた。そう。この老人もまた、この若い女と同じだったのだ。

 二人とも伝説の殺し屋・ジョオ、の殺害の依頼を受けた殺し屋だったのである。そしてマスターこと老人の殺し屋は、素早く抜いた銃をジョオに向けたのだ。それと同時にマスターの脳天を、殺し屋ジョオが放つ弾丸が撃ち抜いた。

 真相はそんなところである。

 こんな高速の戦闘を見せつけられたら、誰も関わりたくはないであろう。

 もうこの若い女殺し屋も、男の客たちも、この顛末を見て見ぬふりをしようと心に誓った。


 「もっと骨のあるヤツは、いないのかしらん?」

 バーの女性店員は自分自身の頬っぺたを銃で触り、まだまだ動けることをアピールしていたのだった。


                       ~殺し屋ジョオは生きている~ <完>

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