第1作品目:雪山の遠足と雪だるまのお化け
雪の降る町で暮らす私は、久しぶりに雪だるまを作ってみた。ふと思い出されるのは子供の頃の冬の遠足の思い出。
私の住んでいた町の小学校では、冬になると近くの雪山で遠足が行われる。
幼い頃になくなった姉が、遠足で不思議な体験をした事を話していた。
そしてその時の恐怖は私にも……。
なろうラジオ大賞5の投稿作品の加筆修正作品となります。
・怪談、ホラー作品になります。少しでも怖いのが苦手な方は、ブラウザバックをお願いします。
・作品についての思いやお話しなどは後書きにて掲載しております。
「わたしにからだをちょうだい!」
どこからかだろうか。女の子の甲高い声が聞こえた気がした────
──あれは急に冷え込んで来た冬のはじまり、雪の降り出した日の夜だったと思う。
私の住む町は雪山に近い。だから比較的、雪の積もる状況には慣れている地域だ。
────いつもなら雪山が雪化粧を始めてからが冬本番だったというのに、今年はやたらと夏が長く暑さが続き、町全体の冬の準備が遅れた。
久しぶりに雪で会社も学校も休みとなれば、たまの大雪でやることはひとつ。
童心にかえって雪かきをしがてら、私は雪だるまを作ることにしたのだった。
そういえば、いつ頃から雪だるまを作らなくなったのだろう……。
私はふと昔の記憶に思いをよせる。
……思い出した。ずっと昔に姉が亡くなった事件の後からだ。
◇
「身体の欲しい子がいたから、雪だるまを作ってあげようと思ったんだ」
たしか姉はそう言っていた気がする。地元の小学校の冬期遠足で、雪山に遊びに行った時だったと思う。
────あの時、姉は確かに雪山で雪だるまを作ったと言っていた。そして雪が解け暖かくなった頃に、姉は原因不明の病にかかった。
辛い記憶を思い起こしてみる……まず最初の症状として、姉の手足が霜焼けになったように腫れあがった────
────冷たい吹雪に手足だけを晒したかのように。
そして全身は氷の中にでも閉じ込められ続けて、凍傷にかっかったように冷たくなり、息を引き取ったのだ。
────たぶん姉は雪だるまのお化けに会ったのだ。そして雪だるまのお化けの仲間にされたのだ。
◇
自分で言っていてバカバカしいと言いたくなる。悲しかった当時の記憶をすっかり忘れていたのも事実だから。
ただ馬鹿げているからと言えない根拠というか消し去られた事件を、私はこの地域とは関係のない図書館の新聞記事で知ったのだ。
◇◇
姉が亡くなった年の五年ほど前に、雪山の遠足で事件があった。
子供たちは遊びのつもりで、一人の女の子を雪で固めて、人間雪だるまを作ったのだ。
子供たちの無邪気な……しかし残酷な遊びで、雪だるまにされた女の子は凍えて亡くなった。
雪だるまのように剥き出しにされた手は、冷たい風にさらされて霜焼けになっていたという────
────子供達に悪意があったかどうかは、今はもうわからないことだ。
この事件は無知の子供の過ぎたいたずらとして内密に処理され、冬期遠足は中止することなく毎年行われた。
当時の私も事件の内情は知らない。でも私は雪山へ行くのが怖かった。
子供ながらに直感で感じていたのかもしれない。姉が亡くなったのは、雪だるまを作ったせいだとわかっていたから……。
◇◇◇
「わたしにからだをちょうだい!」
────私は姉と同じ小学四年生の時に、遠足でその声を聞くことになってしまった。
私は姉の言葉をもう一度、思い出してみた。
「作ってあげようと思ったんだ」
────姉は確か、そう言っていたはず。
そうだ、あの時の姉は雪だるまを作れなかったんじゃないか──私はそう思った。
だから雪だるまのお化けは、代わりの身体を貰いに来たんだ。
────私は小さいけれど雪だるまを作った。
最初に亡くなった女の子は『人間雪だるま』にされて置いていかれた。
そして姉はというと……雪だるまを作れなかったのは、作りたくても時間がなかったからじゃないか?
私は自分の膝ぐらいの高さの小さな雪だるまを作り、拾った石や枝で顔を作った。
腕の変わりに差した枝には、私の使っていた手袋をつけた。頭には帽子を被せた。
雪だるまだって雪山は寒いはずだから……。
家に帰って帽子と手袋を失くした私を、母親は叱った。でも、失くした理由を告げると黙ってしまった。
母親はその日から姉の亡くなった理由や、帽子や手袋の事も触れなくなった。
────私はというとそれ以降、冬期遠足で雪だるまのお化けには会っていない。
◆
────久しぶりに作る雪だるま。私はなんとなく雪山へ向けて顔を作り、手には手袋を、頭に帽子を被せたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
初のなろうラジオ大賞参加作品をホラーから入りました。初っ端からホラー作品を投稿する方は少ないだろうと言うことと、ちょうど雪だるまを使った作品を書いていたので、なんとか削って千文字に修正したものでした。
またこの作品は、冬の童話祭2024に投稿した 『ゆきだるまのダルさんと、ふゆのようせいさんのおねがい』 という作品の怖い面を表現した作品でもあります。
加筆前の作品は、同シリーズの短編として掲載しております。