第12作品目:ぼやき事務員に突如生まれた、金魚ビールの縁とざまぁ
私は事務員をしていた。同僚と付き合う事になり、五年勤めた会社を辞めた。いわゆる寿退社になるはずだったのだが……。
企画投稿時は現実世界〔恋愛〕作品でした。
・作品についての思いやお話しなどは後書きに掲載します。
勤続五年──事務員の仕事を辞めて、結婚して幸せな家庭を築くはずだったはずの私。無事に辞表が受理されて、結婚式までやる事はたくさんあるぞ~っと息巻いていたのに……。
「君とはもう付き合っていられない」
そう言って私に惚れたはずの英男は、あっさりと別れを切り出して去っていった────
────……って、うぉい、婚約破棄ならぬ恋人放棄かい。いくらなんでも会社辞めた後に酷くないかい。せめて婚約まで行けよ。
結婚して幸せな家庭を築くはずだった私の計画は台無しだ。五年も会社勤めしていたのに、モテた事など一度もないのに疑わなかった浅はかな能力の持ち主の私。仕事と恋人を失って気づいた……どうやら騙されたらしい、と。
私なんかにって一瞬浮かれたのは確かだ。非モテが舞い上がって図々しいと言われそうだが、言い訳をさせてほしい。状況がそうさせたんだと。
毎日のように女上司がしつこく絡む理由が英男だ。もうすぐ三十路突入の退路の断たれた女上司は、私以上に焦り余裕がなかった。
人当たりが良くまぁまぁイケメンの英男を、女上司がロックオンしていたのも知っている。
あれは去年くらいの雑談だった。女上司の密かな逆鱗のスイッチを踏んだのは、同僚達の会話だ。
余り物の私と女上司を餌に冗談で英男と付き合っちゃえばいいじゃん────そんな流れになったのだ。
英男は当時もフリー。女上司の想い人に、私まで舞台にあげられ女上司と戦う事になった。酷い話しだ。同僚は弄って暇つぶしのタネに私を戦場へ送り出しておいて知らんぷりだ。
あのね会社に私がいたんじゃ華がないって、部長にも言われたよ。だからって、色恋沙汰の為に辞めさせる罠とか……簡単過ぎだよ私は。
まったくどこの異世界だよと叫びたい。────会社ぐるみで追放食らったんだ、ざまぁ展開至急求む!
「緊急クエストが発動しました」
この期に及んでも、妄想能力だけは止まらない。もうね神様の試練もお腹いっぱいなんだ。
能力というか密かな魅力があると、勘違いしていたよ。レールの敷かれたトロッコに乗って、私は見事沼にハマッたよ。
趣味の沼じゃねー、行き先はガチの泥沼だよ。
円滑に退職を促す事に成功した英男は社長令嬢は無理だけど、部長の娘と結婚するんだそうな。つまり女上司。焚き付けた同僚は知っていて、煽って遊びやがっただけだ。
ウォぉぉ~〜〜誰かこいつらに天罰を。私のぼやきじゃ、火も起こせない。
今思い返すと、お昼にロジハラもどきの説教かますのも行き遅れが焦った結果に見せ掛けて、部長の意向を叶えただけだった。
会社に来るのを嫌になってもらい、私の辞め待ち状態。昼飯食うと嫌な事を忘れる私の能力のせいで、埓があかないと思ったんだね。
もう全て終わった後だ。私に出来るのは、焼け酒でも飲むしかなかった。居酒屋に開口一番入って、目についた金魚ビールと温泉たまごセットを頼む。
どうせ私には何もない。ヤケになりつつ今後を思い、一番安くお腹を満たせそうな謎のビールとツマミを選んでしまう。
ツマミを摘みながら人生について考える。
「────って、ナニコレうまぁ〜」
思わず声が出た。金魚ビールは荒んだ身と心に染み渡り、温泉たまごの味まで引き立てる。
「いい、飲みっぷりだね事務子さん」
金魚ビールの出資者とやらが、たまたま居酒屋にいたようだ。
試しに飲む呑兵衛はいたけれど、おかわりを頼む女は初めてだったみたいだね。私は今後を考えてお金を節約しただけなのだけど。
ヤケになった私は、身体の毒素を吐き出すように身の上話しをしていた。
「ほぅ、それなら是非ともウチの会社に来たまえ」
こうして私は金魚ビール工場の作業員に……ではなく、辞めた会社の親会社に務める事になった。
────金星人のマヤ社長の社長秘書として。
酔った勢いで契約書に判子は押したよ。でも私はただの地味なぼやき事務員だよ?
金魚ビールの胡散臭い謳い文句はマジだった。金星人のおすすめって、ひと昔前の電波かよって思って笑っていたのに。
あっ、ちゃんと元の会社とは縁を切りましたよ。
……あの会社は、誰一人金魚ビール頼まなかったそう。
お読みいただきありがとうございます。
この作品内ではぼやき事務員さんはフラれたけれど、ほんの少し見返し要素を入れました。ざまぁまでは至らないかな。
ぼやき事務員をフッた男、作中はA君でしたが英男と後の作品にて名前がついたので、加筆版には取り入れました。
また課長→女上司として、追い出しをかける部長の娘としました。