第10作品目:緊急クエスト発生! ぼやき事務員に突如生まれた、たまごの能力:
勤続歴五年の事務員の女性は、能力をとにかく発動させる体質だ。
しかし彼女は神様から与えられた能力に不満を持っていた。
いつからか彼女は、諦めるという能力に目覚めていたようだったのだが……。
企画投稿時は現実世界〔恋愛〕作品でした。
・作品についての思いやお話しなどは後書きに掲載します。
異世界になんていかなくても、この世界に誕生する私達に、神様はちゃんといくつかの才能をくれるものだ。
私に与えられたのは────平日の毎朝八時八分の電車の、前から三車両目の列から乗れば、端っこの席に座れる能力らしい。
能力っていうかただの経験だよ……そう言いたい。つまり何の特技もない平凡な会社員の事務員。それが私だ。
そして神様って言うやつは、試練を与えるのが大好きな存在。ろくな能力をくれず難題ばかり押し付ける。それに楽して稼げる才能よりも、怠惰で駄目な才能は沢山くれる存在だ。
いらないって、そんな才能というか性分。真面目で頑張り屋さんな才能をくれさえすれば、私だって認められたのかなって思うのよ。
────はいはい、言い訳の才能出ました。ぼやいてばかりで、ごめんなさいね。
ここ五年くらいで職場のパワハラやモラハラやセクハラは大体なくなって来た。だけどさ……暴言ギリッぎりのロジハラや、朝から意味不明なフキハラが増えた。
家庭に会社の仕事持ち込むなっていうけどさ、家庭の事情も会社に持ち込むなって言いたいよ。なんで私、会社と無関係な人間関係の被害にあって疲れてるんだよ。
────何だろうね、あの正しい、勝てる、とわかった瞬間にぶつけられる正論ってやつ。仕事中ならともかく、せっかくのお昼のランチの前に食欲減退させる能力でも授けられたのって思う。
お昼ジャストに配達頼んだピザ帽子鳩屋の美味しいピザが冷めてしまったよ。あんたの分まで頼んであるわけないだろ。勝手にキレるなよ。
会社の給湯室に行けばレンチンして温め直せる。けどさ、無駄に絡まれて時間ないし面倒。はい、神様特製ものぐさ能力がここでも発揮したよ。
────目は疲れるし、肩は凝るし、足が浮腫む。温泉にでも浸かって、何も考えずにのんびりしたいよ。
こうも毎日理不尽な怒りと、休憩時間に説教とかブラックな労働環境を生きてくには、癒やしのひとつやふたつ必要だ。
それでもまだ地獄のような炎天下で働く人よりマシか。会社に配送でくる宅配便のおっちゃんとか、外装の点検作業をしている兄ちゃん達とか、暑くて大変そうだ。
────なんとなく、ありがとうと言いたい。心の中でだけどね。おっと、さりげなく感謝出来る余力がまだ私にも残されていたよ。
冷めても美味しいピザと、三日月堂の和菓子があれば、嫌な事が忘れられる。
私は単純なやつだからだろうな。神様は私には美味しいものを食べると嫌な事を忘れリセットする能力を授けていた。
欠点はというと、食べ過ぎると体重が増える能力が発動する事だろう。これも神様の能力のせいなんだよ……絶対。
そしてそんな一般的な庶民的な能力で過ごす私は、人生で最大の危機を迎えている。
私の食べっぷりを、いつも観察していた営業の英男君が声をかけてキタノダヨ。
……心の声なのに、震えて噛んだよ。地味モブ事務員の私に、この展開を乗り切る能力はない!
神様助けてぇ。腹黒く、直向きにお弁当を作っていた五年前の私に戻る能力を授けて。しょぼい能力が覚醒して、実は〇〇なんですってパターンをくれていいんだよ?
────無理は承知。私は突如生まれたたまごのように、新鮮な気持ちで恋に挑む能力を育てる羽目になった。
そんな初心な能力が、しがないぼやき事務員私にもあったのだから驚きだよね。
神様の試練は思わぬ所で起きたため、私は与えられた能力を発動する。
────どうやらたまごは無事に孵ったようだ。私は神様から授かった自堕落な能力を、たまごの殻と一緒に捨てようと思ったのだった。
焼き増し連載にも関わらず、お読みいただきありがとうございます。
この作品は短編時には文字数の関係もあって書き足りない面が多かったです。最後の部分は──自堕落な能力を、たまごの殻と一緒に捨てようと思った──の締め方で終わらせてみました。
ぼやき事務員のキャラがこの作品で誕生しました。能力が覚醒し、たまごの殻を捨てたせいか、回を重ねる毎にパワーアップします。
短編投稿時は初の現実恋愛作品でしたが、恋愛部分は最後の方のみの、ぼやき作品でした。




