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プロローグ ゆめみるひつじ、ノイ
先日、同僚が見舞いに来てくれた。私が病で床に伏せる前まで携わっていた鉄道の建設事業が完成を迎えたとのこと。明日から開通し駅も近くにある、乗ったらどうか、とチケットを渡してくれ、それから他愛のない話をして彼は帰っていった。
ところで、私の家にはかわいい秘書がいる。
彼女の名前はノイ、ふわふわの羊毛を全身に纏い、貝殻みたいな角と平行に寝た耳。いわゆる羊の獣人種。奴隷の出身だが頭がよく、存外頼りになる子である。
そのノイが目をきらきらさせながらこちらを見ているので何かと聞くと、恥ずかしがって答えないのを3度繰り返した後にこんなことを言い出した。
「主人様。それ、乗ってみたいです。行きたいとこがありまして……」
彼女が物を欲しがるなんて珍しい。情ある主人としては、可愛い秘書の願いを断るわけにはいかないだろう。
「いいよ、チケットならあげる。好きなとこ旅行してきな」
「ホントですか!?」
「頑張ってくれてるし、ノイだってたまには出かけたいでしょ」
「えへへ、ありがとうございます」
と、いうことで。
彼女の旅路、見守ってやってください。