第二章 ~『追い詰められた男 ★レオパルド視点』~
『レオパルド視点』
眉間に皺を寄せたレオパルドは、屋上に飾られた観葉植物の陰で待ち人がやってくるまで待機していた。
彼の心は怒りで満たされている。その矛先は宿敵のクラリスではなく、最愛の人へと向けられていた。
「私を呼び出して、どうしましたの?」
顔を出したシャリアンテの態度はいつもと変らない。だがレオパルドの発していた怒気に気づいたのか、不思議そうに首を傾げる。
「随分と機嫌が悪いですわね」
「……ルークと浮気していたそうだな?」
「そういうことですの……」
ルークと揉めたと知っていたシャリアンテは、事情を察し、反論さえせずに真実を語る。
「しましたわ。でもそれはお互い様でしょう。レオパルドも婚約者がいながら私と交際しているのですから」
「俺は違う。本当にシャリアンテを愛しているんだ」
「口でならどうとでも言えますわ」
「嘘じゃない。俺はお前のためならどんなことだって……」
親友だったルークさえ裏切ったのだ。今更、腰が引けることはないと語気を強めるが、シャリアンテは疑いの眼差しだ。
「本当に私のためなら何でもできますの?」
「ああ、約束する」
「なら私、良い方法を思いつきましたの!」
「な、なんだ?」
「あの女の命を奪うんですの」
あの女とは口にするまでもなく誰のことか明らかだ。突拍子もない提案に、ルークは戸惑う。
「――ッ……ま、待て、待て、さすがに殺しは……」
「私、臆病な男は嫌いですわ」
「違う、そうじゃない。殺したら婚約関係も終わり、援助が打ち切られる。俺が貧乏になるのは嫌だろ?」
「ですが、浮気がバレたら、有責で婚約破棄になりますわ。一方、事故で死ねば、ダーナル子爵家の過失。交渉次第で援助を続けさせることもできるのでは?」
「うぐっ……」
シャリアンテの提案には一理あった。だが人の命を殺める提案に、口では何でもすると言いながらも彼の腰は引けていた。
しかし現状を維持して浮気が露呈すれば、公爵家から追放される危険もある。そうなれば身の破滅だ。
「俺が破滅することに比べれば、クラリスの命くらい安いものか……」
「それでこそ私の浮気相手。危険なあなたも素敵ですわね……」
「惚れ直したか?」
「ふふ、では次の夜会。二人で襲撃しましょう」
「ああ」
公爵と子爵では命の重さが違うとでも言わんばかりに、レオパルドは歪な笑みを浮かべる。自らの利益のために、手を血で染める覚悟を決めるのだった。




