第二章 ~『保健室での二人』~
ルークに殴られ、病室に運ばれたレオパルドを見舞うためにシンシアが訪れる。白一色の室内には薬品の匂いが充満していた。
「元気ですか?」
レオパルドは病室のベッドで横になりながら、顔だけを彼女に向ける。
「元気なように見えるか?」
「ふふ、見えませんね」
「それで、俺に何の用だ?」
「お見舞いですよ。なにせ私たちは婚約者ですから……今はまだですが……」
暗に浮気を疑っていると伝えたことで、気まずい空気になる。
「でも、まさか、友人を裏切ることになるとはな……」
「友情より愛情ですから。婚約者を優先したあなたは、賞賛に値します」
心にもない台詞だ。そもそも彼がルークを裏切ったのにはシンシアが関係していた。
時を遡ること数日前、シンシアに校舎裏へと呼び出された日のことだ。。
「レオパルド様には、ルーク様を破滅させる手伝いをして欲しいのです」
「は?」
「詳しい計画を説明しますね」
内容はシンプルだった。屋上に呼び出したルークが怒りで手を上げようとするので、その瞬間を写真に収めて欲しいとの依頼だった。
最初は友人を売れないと拒否したが、シンシアはその答えさえも予想していたのか、シャリアンテとルークのキス写真を提示した。
「こ、この写真は⁉」
「随分と動揺しますね?」
「シャリアンテは大切な友人だからな」
「ふふ、なるほど、友人ですか……なら教えてあげましょう。それは二人の不倫の証拠です」
「――――ッ」
「ルーク様には婚約者がいます。なのにシャリアンテ様はその彼と浮気をしている。大切な友人に道を踏み外させてもよいのですか?」
「…………」
「私と協力して、ルーク様を破滅させましょう。そうすればシャリアンテ様は浮気相手と手を切れますから」
レオパルドは友人を裏切る罪悪感より、シャリアンテを奪い返すことを優先した。シンシアの提案を飲んだのだ。
だがこれは毒薬でもあった。シンシアの目には彼の行動が友人を裏切ってでも、シャリアンテを別れさせようとしていると映ったはずだからだ。
「痛み止めの薬を取ってくれ」
「構いませんよ」
病室の棚に置かれた薬と水を、シンシアは手渡す。起き上がった彼は、水で胃の中に薬を流し込んだ。
「痛みが引くといいですね」
「ああ……」
薬の力では、最も大きな心の傷は癒えない。薬を飲み終えたレオパルドは息を吐く。
「なぁ、ルークはこれからどうなる?」
「学園での地位を失うでしょうね。停学も免れないでしょう」
「退学にはならないよな?」
「被害者のあなたが訴えなければ、停学で済む可能性はありますね」
「なら俺は訴えない。目的は十分に果たしたからな」
シャリアンテは地に落ちた人気者に興味を失うだろう。ルークとの浮気関係も解消するはずだ。
「ルークの奴は婚約を破棄するのか?」
「しないでしょうね。なにせ私と違って、ナザリー様は優しいですから」
「クラリスとは違ってか……」
プレッシャーを感じする一言に、ゴクリと息を飲む。訊ねるべきではないと分かっていながらも問わずにはいられない質問が口から飛び出てしまう。
「もし俺が浮気したらどうなる?」
「さぁ、どうなることでしょう」
曖昧な返答だが、レオパルドの手を震わせるだけの十分な迫力があった。
「レオパルド様、手が震えているようですが……」
「あ、ああ、殴られた痛みを思い出しただけだ」
病室に緊張が奔る。いつもならキリキリと感じる胃の痛みがない。痛み止めの薬に感謝しながら、拳をギュッと握りしめるのだった。




