第二章 ~『放送室での種明かし』~
放送室に殴り込みに来たルークは怒りの形相を浮かべる。彼がやってくることは想定通りだったのか、レオパルドは冷静なままだ。
「レオパルド、なぜこんなことをする⁉」
「クラリスは俺の婚約者だ。暴力に晒されたなら、命賭けで守る義務がある」
「このクズが!」
レオパルドはシャリアンテと浮気している。その事実を知っていたルークは、綺麗ごとを口にする彼に嫌悪を抱いた。
「ルークに俺をクズ呼ばわりする資格があるのか?」
「どういう意味だ?」
「説明してやる義理もない。ルーク、お前はこれで破滅だ。俺の手で終わらせてやる」
放送を止めようとしないレオパルドに、ルークは怒りのボルテージが頂点に達する。彼は自分でも気づかない内に、拳を振り上げていた。
「レオパルド!」
放たれた拳がレオパルドの頬を貫く。友情を裏切られた恨みを乗せた一撃は、彼を吹き飛ばした。
さらに床に転がったレオパルドに馬乗りになったルークは、トドメとばかりに拳を顔面へ叩きつける。
「クソッ、あの写真もレオパルドの仕業だな。俺を裏切りやがって!」
写真は三人しか知らないはずの屋上の隠れ家から撮影されていた。レオパルドの仕業だとすれば納得がいく。
拳が顔を叩くたびに、骨を砕く音が響く。その鈍い音は痛みを連想させる音色だった。
「俺の怒りが分かったか⁉」
「うっ……ぅ……」
レオパルドは殴られた痛みで苦悶の声を漏らしながら意識を失っていく。彼に勝ち誇るルークだが、放送室の扉が開いたことで、冷静さを取り戻す。
「ルーク様、音がすべて流れていますよ」
放送室にシンシアが足を踏み入れ、放送ボタンを停止させる。暴行の音がすべてリアルタイムで流れていたのだと知り、ルークの顔は見る見る内に青ざめていく。
「生放送での暴力は言い逃れできませんね」
足元が揺らいでいくような絶望を感じながら、ルークは天井を見上げる。もうすべてが台無しになってしまったのだ。
「どうしてこんなことに……」
「ふふ、さて、どうしてでしょうね」
シンシアは歪な笑みを浮かべていた。その表情からルークの頭の中には、ある仮説が浮かぶ。
「まさか……これまでのことすべてが……」
「ご明察の通り、私の仕業です」
レオパルドは意識を失っており、放送用のマイクもストップしている。観客が彼だけなら、取り繕う理由もない。
「折角ですから、種明かしをしてあげましょう。最初にこの計画を思いついたのは、あなたとシャリアンテ様との浮気疑惑を聞かされた時です。このネタは使えると思いました」
「……それで俺の浮気現場を狙っていたのか?」
「あれは偶然も重なった結果ですね。本当の計画では、レオパルド様の浮気を暴き、頼る者を失ったシャリアンテ様が、あなたに縋るはずだと予想していましたから。そこで、あなたの浮気を暴く予定だったのですが、順序が逆になりましたね」
プロセスは違っても、結果は同じだ。ルークの浮気が暴かれる未来に変わりはなかった。
「ですが、計画には大きな障害がありました。直接、浮気をネタにあなたを破滅させるわけにはいかなかったのです。なぜなら、ナザリー様はあなたが改心し、婚約者のままであり続けることを望んでいます。浮気したと情報が広まったあなたを許しては、ナザリー様の沽券にかかわりますから」
貴族社会では舐められたら終わりだ。だからこそ、浮気騒動を起こしたなら厳格に処分しなければならない。彼の罪はシンシアたちの胸の内に潜めておかなければならないのだ。
「そこで私は考えました。浮気以外の問題を起こさせればいいと」
「それが俺の暴力行為か?」
「はい。私の胸倉を掴ませ、脅しの録音も手に入れました。しかしこれでは脅しただけだと謝罪すれば、評判は落ちても、破滅に届くかどうかは賭けになります。なので、レオパルド様をけしかけました」
「……こいつが俺を裏切ったのは、シャリアンテとの浮気か?」
「はい。大切な女友達と浮気する友人を放っておいていいのかと、計画を授けました。無事、彼は目的を果たしてくれた。重傷を負いながらも、あなたを破滅させてくれたのです」
浮気の疑念から、計画を練り上げる智謀に戦慄する。ルークの手の震えは止まらなくなっていた。
「さてと、時間稼ぎもこれくらいで構いませんね」
放送室の扉が開かれ、教師たちが飛び込んでくる。加害者のルークは拘束され、床に押さえつけられた。
種明かししたのも、自暴自棄になった彼が逃げ出したり、シンシアに危害を加えたりする可能性がゼロではないためだ。教師が到着するまで彼を留めておくことに成功し、押さえつけられた彼に対して勝ち誇る。
「嵌められた! 俺は罠にかけられたんだ!」
負け犬のような遠吠えをあげる彼を見下ろしながら、シンシアは微笑む。ルークの目尻には後悔の涙が浮かぶのだった。




