ザフト・ブルームへの罰
【冒険家ギルド】
「で、ザフト・ブルーム達について聞きたいって?」
受付横の飲食スペースで、ギルド職員のキルケスは、怪訝そうな顔を向けた。
「はい、最近やっと捕まりましたね」
「ああ、これで街道を行く者達も、少しは安心できるだろう」
「ええ、その通り。奴等の罪状は悍ましいものでしたからね。殺人、強盗、強姦、略奪、人攫いでしたか」
「はい。即、死刑だろうな。で、要件は?」
「ああ、すいません。彼等はギルドに登録していたんでしょうか」
「ああ、最近クエストを受けることもなく、名前だけになってたが、登録はしていた」
「全員ですか」
「ああ、全員だ」
「四人とも冒険者だったんですね」
キルケスは、不思議そうな顔で問い返す。
「三人組だろう?」
「四人目がいたそうですよ」
キルケスの前にニ枚の銀貨。
「良かったら、又教えてくださいね」
キルケスはニ枚の銀貨を手に、受付の奥に帰っていった。
【衛兵詰所】
「お前が、ザフト・ブルーム達について聞きたいっていう記者か」
門番を交代してきたグルースが、兜を外しながら入って来た。詰所の中である。
「はい、グルース様も捕縛に御尽力されたとお聞きしましたので、そのお話が聞ければと思いまして」
「衛兵として、当たり前のことをしただけだ」
グルースの前には、ニ枚の銀貨。
破顔して、言葉を続ける。
「奴らはな、どうしようもないクズであった。街道を行く商人達を襲い金品を強奪。男共は殺され、女達は辱められた後に売られた。旅の者もかなりの数が被害にあったであろう」
「そんなクズを捕まえられたんですね」
「ガッハッハ。儂だけの手柄ではないがな」
「それで、どういった経緯で捕縛に至ったのですか?」
「タレコミがあったのだ」
「タレコミですか?」
「ああ、奴等の隠れ家のな」
「それは、日々、門を護り、民を護ってくださるグルース様ならば、捕まえてくれるだろうという、民の想いだったのでしょうかね」
「違いない。儂は、日々、民達の事を護っておるからの」
「それで、一網打尽ですか?」
「おう、そうよ」
「四人とも?」
「んっ、三人ではなかったか?」
「奴等は、四人いたそうですよ」
「もう一人いたのか!」
「そう聞いておりますが」
「なんと!スマンが用ができた」
血相を変えたグルースは、足早に詰所を出ていった。
【青果市場】
「ザフト・ブルーム達が捕まったってね」
「良かったわ、これで安心して街から出られるわ」
答えたのは、恰幅のいい中年女性であった。
「街から出ることがあるのですか?」
「あるわよ。薬草を摘んだり、木の実を採ったり、色々よ」
「へぇ〜、お貴族様の女中様でも、自分で草を摘んだりされるんですか」
「記者さん、何でアタシが女中って分かるのさ」
「そりゃあ記者の目ってやつですよ。仕立ての良い服、綺麗に結び上げた髪、隠しきれない気品、どこをとっても、貴族様の女中様だ。更には、その美貌からすると、伯爵家以上とみますね」
「あらやだ、気品だ美貌だって、言い過ぎよ〜。でも、その通り、カララリス様の所よ」
「へぇ、カララリス様というと、伯爵様だ。それも確か、裁判官をされていた……」
「そうよぉ、だから今、大忙しよ。ザフト・ブルーム達のせいでね」
「そうなんですか。でも、平民の罪人なんて、首切ってオシマイでは、ないんですか」
「普通ならね。でも、ウチのご主人は、きちんと調べる質だから」
「なるほど、四人にしっかりと尋問されてるわけだ」
「えっ、捕まったのは、三人でしょう?」
「ザフト・ブルーム達は、四人組ですよ」
「まあ、知らなかったわ」
「私は、暫くの間は、この辺りにおりますので、何か情報がございましたらお願いしますね」
女の手には、ニ枚の銀貨が握らされていた。
【バー・ノエルの巣】
小さな店のカウンターで、一人の男が静かに飲んでいる。
客は、この一人だけ。
カウンター内から白髪交じりの男が、グラスを置いた。
「おごりだ。空だろ」
「ありがとう、スレイン」
「ナティアちゃんが殺されてから、もう一年か……」
「ああ」
「辛かったなぁ」
「ナティアは、あんな奴らに弄ばれて殺されるような人間じゃなかった……」
「天使だったよ」
「あぁ、天使のような女だった」
「でも、捕まったじゃねえか」
「あぁ、捕まらせた。でも、まだだ、簡単には殺させない」
男の瞳は、暗く光っていた。
【街の広場】
人集りの中、一本の立札が立っていた。
「おいおい、ザフト・ブルーム達の死刑が延期になったってよ」
「はあ、あんな奴ら、すぐに殺しちまえばいいんだよ」
「既に結構拷問されてんだろ」
「ああ、見た見た。脚とか穴だらけだったぜ」
「ザマァ見ろだ」
この街で、罪が確定している罪人は、日暮れ間近から朝まで、吊るされ、晒し者となる。
そして、それは処刑されるまで続く。
ザフト・ブルーム達の処刑は、延期となった。
捕まっていない四人目の情報を白状するまで、拷問と晒し者となる日々は続くのだ。
いもしない四人目を白状するまで。
長編の後の息抜きでした。
セリフメインの変な話が書きたかったのですが、如何でしたでしょうか?