「何てことない日常」 その3
「はぁ、はぁ、はぁっ!!」
ついソファーでうたた寝してしまいまた悪夢を見る、最悪だ。
汗が滝のように流れそれを見つけたアヤちゃんは大慌てで近くにあったタオルを差し出す。
「だ、大丈夫!?ユイちゃんのあんな顔初めて見たわ」
あはは、なんか嫌な夢見たと取り繕った笑顔を見せる。私は子どもに心配させまいと余裕の笑顔を作る、苦しくても悲しくても私は皆のお姉さんだからと頑張るしか無いんだ。
「ユイちゃん、最近頑張り過ぎよ?少しでも気を楽にした方が嫌な夢を見ることはないわ」
アヤちゃんは何かを悟ったかのように私はいつも緊張状態や警戒態勢だから悪いことが起きないように最悪な状態を想像して動いているからとそれが悪夢として出てきていると発言する。
私にはよく分からない、悪夢を見る理由が思い浮かばない。
「私、もう少ししたら帰るけどユイちゃん、もし眠れないなら“自分が安心できる状態”にすれば良いわ、そうすれば少しは気は紛れると思うから」
アヤちゃんはそう言って最後にハーブティーを作ってくれた、ほんのり甘くて清涼感のある優しい味だった。
「自分が安心できる状態か」
私の安心できる状態・・・いつも安心してると思ってるんだけどな〜皆からそう思われていないのかな?私はいつ、安心できるのだろう?私はいつ悪夢を見なくなるんだろう??
私はその日から数日間悪夢について調べてみた、だがどれも突拍子もなくくだらない、心理的だの精神的苦痛、記憶やら何やらと私にとって時間の無駄感が否めなかった、結局原因が解らず金曜日まで悪夢を連続で見る羽目になった。
いつも変わらないからと言って毎日毎日殺され方のバリエーションだけ豊かなのは苦痛でしかない、しかも毎回殺し方が凝っていて鬱陶しい、あまりに苦痛だった時は自分の腕切り落としたっけ、腹も刺したり喉元を切り裂こうとも考えた。
だがそうまでして私は誰にも相談なんかしない、子どもにはいつもの私を見て欲しいから、だがそんな私を見透かす存在がいる。
「ただいま―――― ってゆいゆい!?」
また見たの!?と愛するお嫁さんのユカリちゃんが駆け寄ってくる、私は夕方だからご飯の支度最中に気を失い持っていた包丁を手に突き刺していた。
いつものことよと抜いて洗おうとするがユカリちゃんはバタバタと救急箱をリビングから持ち出した。
「私が洗うからゆいゆいはそのまま動かないで!!」
私を気にかけてくれるユカリちゃんは出血する手を丁寧に包帯を巻いてくれた、その過程で止血して傷口が早く塞ぐように特殊な粉を撒いたからユカリちゃんの治療能力も上がったなと嬉しく思える、残念なのはその原因が私であることかな。
「ゆいゆい、やっぱりまだあの夢を見てるの?」
私は笑顔を見せる前に深刻な表情で悪夢について聞き出してくる。ユカリちゃんは皆と違って私との時間が長く、身体の状況を察してしまう。だからユカリちゃんに嘘は吐けない。
「うん、最近は特にね……お姉さん疲れちゃったのかな?」
あははと苦し紛れの笑顔にユカリちゃんは優しく頭を撫でてくれた。
「そうだ、私ねプレアちゃんからマッサージ機についてゆいゆいに合った商品を紹介して貰ったんだ」
するとユカリちゃんは鞄からとある商品のチラシを受け取った。
「アヤちゃんから言われたゆいゆいはリラックスをさせてくれる物や緊張を弛緩させる物があれば怖い夢を見なくて済むんじゃないかなって!」
成程、だからマッサージ機を・・・・
「でもこれ高くない?」
私は最初見た時は値段の方を目を瞑っていたがいざ直視するとその値段に私は苦い顔をすることになった。
「サナエちゃんにも相談して出来るだけ安いの選んだ方なんだよ?」
「それでも八万は高くない?お姉さんこんなの払えるわ――――― 待った、これ“購入済”になってない?」
文句を流れるように言い続けているとよく見ると橋の方に判子で購入済と印が押されていることに気付く、それを聞いたユカリちゃんはにこにこしていた。
「えへへ、皆でゆいゆいが元気になってくれるようにって協力してくれたんだ〜♪」
嘘、私なんかの為に?こんな大金家族でもっと幸せを作れるというのにお姉さんの事は大丈夫だから気にしないでって言ったのに。
私は初めて子どものやりたいことに共感出来なかった、私はお姉さんだから、最強だからと謳って子どもの為に身体を犠牲にしたのにどうして・・・
理解が出来ない私にユカリちゃんはそっと抱き抱えて耳元で囁いた。
「皆ゆいゆいの事心配なんだよ、ゆいゆいは頑張り屋さんだから家族の為に何でもする人だから皆で表の世界だけでも“安心できる環境”を作りたいだけだよ?皆いつまでもゆいゆいの事知らないなんて事だらけだと思ったら大間違いだよ、苦しい笑顔は逆に不安にさせるって私は思うな」
私の策も万策尽きたってことね………見限ってる訳じゃ無くて私の本質を見極めてきたから今回の事を起こした。私は家族の一員なんだ、子ども達は私を幸せな笑顔を見守る人ではなく幸せな笑顔を共感する人になって欲しい・・・そういうことなのかな。
「ごめんね、ゆいゆいの意見も考えないで買っちゃって」
それでもまだ不安な所もある、子どもはまだ人生経験が少ない、それを私みたいな大人が補佐する側なのに私は孤立して動いていた。私はやっぱり駄目女だ。
「ううん、ありがとう。皆私の事大切に思ってくれてるんだね♪」
「当たり前だよ、皆ゆいゆいが築き上げた家族なんだから今度は皆で幸せになろうよ」
誰一人欠けることを許さない“家族”、ハルカならきっとすぐにこの状態になっていたんだろうな、遠回りしてきた私はやっと気付けたんだからね。
私は言葉を返さず大好きな人の温もりを五体に刻むことにした。




