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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白桃の少女と深緑の××鬼の結ばれない両想いの話

作者: 海月箒

《登場人物》

◇白山茶花 桃椿-シロサザンカ モモツバキ-

 …高校生、白桃の少女


◆卯花腐 春時雨-ウノハナクタシ ハルシグレ-

 …高校生、桃椿の親友、××鬼



◆黒檀 未恋-コクタン ミレン-

 …高校生、桃椿と春時雨の友人、黒い少女


※『白の魔法少女〝マジカルカメリア〟』本編終了後の話です。

-あれは確か最後にハルっちの家に泊まった時のことだったと思う



「夢の中でとてつもない罪を犯してどうしようもなく絶望的な気持ちになった後で目が覚めて〝ああ、夢で良かった〟って思うことってない?」


早朝6時半に目が覚めると窓際にハルっちが腰掛けていた。


窓の外を見ながらコーヒーを飲んでおり表情は(うかが)えない。


「おはよう、あたしのハルっち。なんか怖い夢でも見た?」


一緒に窓際に腰掛けて外を見る。


早朝だからか人は少ない。


「いや、いい夢だったよ。…目が覚めて嫌な気分だ」


言い終えてハルっちはコーヒーを一口飲んだ。


ハルっちのコーヒーはいつもブラックだ。


あたしは苦くて飲めない。


「そっか。そういう時はコーヒーでも飲みながら二階の窓から外でも見るといいよ」


「フフ、今やってるよ。おはよう、モモ」


そう言って一気にコーヒーを飲み干した。


「ハルっち。そこはさ〝おはよう、ワタシのモモ〟じゃないの?」


イケボでさ。


「フフ…。モモはワタシのじゃないでしょう? モモの分も何か()れてくるよ」


ハルっちは一階に降りていった。


「別にそれぐらい言ってくれてもいいじゃん」


最後の一線、いつもつれないんだから。


言ってくれないからこそハルっちなんだけどね。



「ねえ、モモ。もしもの話だよ? ワタシが男でなんの障害もなかったらワタシと付き合ってくれる?」


え、なに告白っ!?


…ではないよね、この流れで。


真面目に答えるか。


ハルっちの淹れてきてくれたカフェオレを一口飲む。


うん、苦い。


「ハルっちなら女のままで二人の間にどんな障害があっても付き合ってもいいけど?」


これじゃあたしが告白だ。


でも、正直な気持ち。


「ハハ。ありがとうモモ。嬉しいよ」


「本気にしてないなー」


二人して窓から外を見る。


小学生の女の子二人が手を(つな)いで登校している。


「じゃあ、逆に聞くけどさ。なんの問題もなかったとしたらハルっちはあたしと付き合ってくれたりするの?」


「そうだね…」


ハルっちはコーヒーの入ったカップを置いて目を(つむ)った。


「そう出来たらいいね」


嬉しいことを言ってくれたが、対照的にハルっちは悲しそうな顔をしていた。


「悩みがあるなら聞くけど?」


この白山茶花(しろさざんか)桃椿(ももつばき)様が。


「ありがとう。…じゃあさモモ」


ハルっちがあたしの方を向いた。


(うれ)いを帯びた瞳で見つめられて、胸が高鳴った。


「モモは…、ワタシのこと好き?」


何を当たり前のことを、と思ったけど。


こういうことこそ本気で答えるのがあたしだ。


「大好き。愛してるよ」


あたしの答えを聞いてハルっちはびっくりしたみたいな顔をした後、笑った。


「ありがとう。その言葉を聞けただけで生きてきて良かったよ。…ワタシも大好き。いや、愛してるよモモ」


この時だけは。


いつも一緒にいても遠くにいるように感じていたハルっちを近くに感じた。


「じゃあ、両想いだ。結婚しよう。挙式はどうする?」


「サクが卒倒(そっとう)しちゃうって」


まあ、ハルっちラブな嫁入(よめいり)は発狂するかもな。


「嫁入には事後報告で。披露宴(ひろうえん)には未恋(みれん)ちゃんだけ呼ぼう」


可相哀(かわいそう)だろ」


そう言って二人で笑いあって。


一緒に朝食を食べて〝また明日〟って言って別れた。



…次の日ハルっちは行方不明になった。


彼女とはそれきりだ。




















「〝付き合ってもいい〟って。あたしは本気だったんだけどな」


「どうかしましたか、(もも)ちゃん?」


一緒に横を歩いていた未恋ちゃんが反応した。


「いや、なんでもない」


ちょっと去年のこと思い出しただけ。


「失礼しました。訂正しますね、修正しますね。-ハルさんのことを考えていましたか? 桃ちゃん」


天然なのに、昔から変なとこ察しがいいよね未恋ちゃんは。


そういうミステリアスなとこがいいんだけど。


「まあね。未恋ちゃんは寂しくない?」


あたしやサクのいないとこでも二人で遊んでたし。


「私とハルさんは似た者同士でしたから」


こうなると思っていました、という未恋ちゃん。


「そっか。あたしとハルっちは全然違ってたからさ。だからこそお互いのことが大好きだったよ」


かけがえがなかった。


「そうですか、そうですね」


相変わらず無表情で人形のように喋る未恋ちゃん。


「でも、一つだけ付け加えさせてください」


「桃ちゃんがハルさんを好きな何倍も、ハルさんは桃ちゃんのことが大好きでしたよ」


私が言うんだから間違いありません、と未恋ちゃんは前を向いたまま淡々と言った。


「…そっか。だったらさ」


ずっと一緒にいて欲しか…


「だから一緒にいられなかったんでしょうね」


「なにそれ?」


なんなんだよ、ハルっち。


お前はさ…。


「どうぞ」


未恋ちゃんが白いハンカチを差し出してきた。


「なに? 未恋ちゃん」


「桃ちゃん泣いてるので」


ハンカチを受け取る。


「ありがと、未恋ちゃん」


今も沢山友だちがいて、家族がいて充分幸せだけどさ。


やっぱり四人でいたあの頃が一番楽しかった。


未恋ちゃんがいて、嫁入がいて、ハルっちがいて。


だからさ、ハルっち。


不可能なのかもしれないけどさ。


「いつでも帰ってきてね、ハルっち」


待ってるからさ。


「そうですね、ハルさんのことですからフラっと戻ってくるかもしれないですね」


珍しく笑った未恋ちゃんと一緒に駆け足で学校へ向かった。


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