指名手配開始
夜が明けることを告げるように、暖かな太陽が登る。結局、一睡も取ることは無かった。俺たちは夜通しひたすらにご飯の話をしていた。「これは、こうやって食べると…」「あれとあれを組み合わせるとじゃな…」「ここを摘んで、がぶっと!」
俺は、かなり重罪な盗みを働いたから、捕まってしまうだろう。日中のハイベルンジャー通りは、不気味な程治安が良い。理由は分からないが。
俺のような危険人物を、剣士が放っておくわけが無い。すぐに、大規模捜索が始まると予想した。
ミズモ 「さてと!そろそろ、この街を出よう」
ポルカーン 「んー」
寝ぼけてる。たしかに、オールするのは、俺だって初めてだから、眠いのは分かる。しょうがないから、彼女を持ち上げる。後ろから、膝と肩へと手をのばして…。
あれ!?軽い!想像してた3倍ぐらい。ポルカーンは、眠っていた。スースーと、可愛らしい寝息をたてている。
そもそも、霊体に触れること自体が摩訶不思議だった。
街を、周りから見たら凄い絵面で歩く。しかし、ポルカーンは俺にしか見えないので、俺は心置きなく街を歩いていく。こんな事、今だからできることだ。元からシャイな俺が、かなりアグレッシブなのも、この好条件下だから。
街は、いつも通りの穏やかな表の顔のハイベルンジャー通り。しかし、いつもとは異なる事がある。それは、指名手配ポスターが配られていた事だ。俺のフード姿が、再現後高く貼り付けられている。ご丁寧に、“ミズモ”という名前も書き込まれている。今は、フードを外しており、普通の少年を演じているけど…。
ちらりと見ると、懸賞金が、一千万!?
俺は急いでかけ足をする。すぐにでも出ていかないといけない!という切迫感を覚える。被害総額は、そこまであったのか…。自分の罪の重大さに、少しビビる。正体不明が、逆に厄介だった。顔が載るのも、厳しいけど、正体を隠せないのはなぁ〜。
そんな事を考えているうちに、ハイベルンジャー通り及び街を出ていた。今は、平原にいる。そう、あの監獄の上の平原だ。街からの距離は数百メートルのため、ジョギング程度の爽快感もある。だが、食べ過ぎからの横っ腹が痛いのは、あまり良くないが…。
魔の果実の大樹へと、体を預けて休憩を取る。ポルカーンも、幹にそっと座らせた。食料の問題は、当分大丈夫だと思う。次は、住居となる場所を確保しないとな。これは、衣食住の中でも最も難易度が高いと感じる。こういう時、皆さんならどう考えるだろうか。
考えているうちに、いつの間にか眠っていたようだ。目をショボショボさせ、大空を見上げる。幸い、雨が降ることは無いだろうと思われる程の快晴だ。俺は大きく伸びをして、うーんと唸った。
同時に、彼女も目を覚ます。
ポルカーン 「おはよう〜。良い昼寝じゃった」
ミズモ 「昼では無いけどね」
ポルカーン 「午前中に寝るなんて、よほど生活リズムが悪いんじゃと思うのぅ」
ミズモ 「いや、こういうもんでしょ」
一睡もせずに1日を迎えたことがある人は、共感してくれるはずだ。なんか、こう、気が付いたら視界が狭くなっているのだよ。
それより、今後の問題、住宅についての話をしてみよう。
ミズモ 「ポルカーン、家持っていない?」
彼女は、凄い魔女なんだ。ひっそりとした森の中に、怪しげな木製の家が…
ポルカーン 「無いぞ」
ミズモ 「なんでなんだよぉ!」
予想を悪い意味で裏切る回答。どうやら、彼女は俺の想像する魔女では無いようだ、あらゆる面において。
ミズモ 「え?なに?もしかして、さすらいの魔女だったパターンですか」
ポルカーン 「いや、私はそもそも亜空間に住んでいるから…」
これまた予想外な回答。でも、これは希望が持てる!
ミズモ 「なるほど!じゃあ、俺もそこに住ませて…」
ポルカーン 「嫌じゃよ。プライベート空間だし…」
俺は、彼女のほっぺたをつまんだ。とうとう、限界で手を出してしまった。
ポルカーン 「きゃっ!な、何ふぉふるかー!」
やっぱり、彼女は優秀なのか無能なのかはっきりとしない。