ハイベルンジャー通りの夜
ハイベルンジャー通りは、昼でも賑わっている。
魔物退治の専門家、“バスター”のギルド。治安維持の剣士の集合施設。この時間帯に精を出す食料品を売る商人達。見慣れた光景だ。
よくここに遊びに来た事がある。俺みたいな少年は、ここに来るのは昼だけだろう。夜のハイベルンジャー通りは、もはや別の街だ。バスターの夜の顔、ならず者が溢れる。そして、それを見計らって活動する剣士の人々。そう、夜のハイベルンジャー通りは、レベル上げを目論む剣士とならず者が溢れる。別名、“決闘の地”と言う。夜景は綺麗なのだがなぁ、もったいない。
決闘は、いくつかルールがある。一対一、武器もスキルも認められる。だが、相手を殺してはいけない。
勝てば、レベルが相手の強さに応じて上がる。レベルは下がる事は無いから、ノーリスクをいい事に、1日約100以上の決闘が行われるそうだ。引き分け制度もあり、お互いが了承すれば、決闘は中止される。疲れ切って次の決闘への支障となるのを防ぐため、よく起こる現象だ。
剣士は、罪を犯した者に決闘を申し込む必要は無い。その場で現行犯逮捕すれば良いのだ。だが、レベル上げや報酬アップを狙う剣士も多い。彼らは、決まって条件を設定するんだ。
言い忘れていたが、決闘に条件を付ける事もできる。例えば、剣士と犯罪者が決闘するとする。大体は、“剣士が勝てば犯罪者はそのまま逮捕。犯罪者が勝てば、罪は免除される。”とかかな。
一見、剣士のメリットが少ない気もするが、決闘によって逮捕した場合は、報酬と名誉が上がる。それが重なり、今後のキャリアが明るくなるのだ。
犯罪を犯しても、強ければ許される、そういった弱肉強食の街でもあるのだ、ここは。
要するに、夜は何やっても、決闘で勝てばいい訳だ。だが、今は昼。平和な街を再現しないと、速攻で現行犯逮捕行きだ。食料を、どうしようか…。
ポルカーン 「お主、お金持ってないの?」
彼女は鈍痛なところを突いてきた。重苦しい痛みが、ストレートパンチのごとくお腹に打ち込まれた、気がした。言葉の重みを感じる。
ミズモ 「う、うるさい!俺は追放された身だ。ゼロからスタートしたんだよ、俺は」
ポルカーン 「まぁ、それもそうじゃな。お主の親は厳しいのう」
ミズモ 「普通だよ。知ってたか?15歳からは、“大人”って呼ばれるんだぜ。スキルも貰えるから、いよいよ自立できると思われてるんだ。」
まぁ、追い出される子供なんて、俺以外にはいないだろうけど。
コズミック家は、すでにここ付近の頂点だった。権力が高いので、俺がどれだけ優秀だとしても、変化はほぼ無い。だが、残念な事に俺は無能だ。そんな奴、いらないと…。
あれ?というか、今冷静に考えたら、ポルカーンは実体無いのにお腹すくの!?いや、たぶん考えても無駄だろう。
ミズモ 「という事で、俺はもう自立した大人です。よって、今盗みを働けば、逮捕されます!だから、夜まで待ってくれ」
ポルカーン 「う〜ん、でも〜」
ミズモ 「いいから我慢しなさい」
ポルカーン 「…は〜い」
彼女は不機嫌そうに返事した。少し猫背になっている。なんだか、妹を持った気分だ。
夜になるまで、俺はハイベルンジャー通りをポルカーンに紹介して回った。昼は、学校を抜け出してよくここを訪れたものだ。どこに何があるかは、基本知っている。食料売り場、服屋、武器屋などなど。
食料売り場の店長は、コワモテ番長と言い表すのが適切だ。昨日の夜、それが真実だとわかった。そう、あの店員は、後々店長本人だと気付いた。通りで、この街の食料は、盗みづらいんだと思った。あの店は、夜でも、1週間盗難ゼロを記録したこともある。俺でなければ、昨日の時点で捕まっていただろう。
あれ?俺もしかして、盗みの才能があるかも。なんだか自信が湧いてきたので、今宵は暴れまくる事にしよう!
日は沈み、ハイベルンジャー通りの夜の姿、決闘の地が現れる。人々は家に戻り、灯りが灯った。
ミズモ 「これから、なんとしてでも生き延びてやる…!」
決意を固めた俺は、食料売り場へと足を踏み出した。