始まりの契約
世の中、人のためとかに尽くせる人なんざ、いないんだ。警備の剣士の気持ちなんて、俺には一生かけても分からないだろう。
それに、今俺に味方してくれる人なんて、いない。昨日15歳になったばかりの、か弱い少年だったんだよ…。だから俺は、今この魔女から多くを搾取しなければならない!少々ひねくれた考えかもしれないけれど、背に腹は変えられ無いわけだ。
ミズモ 「何か、生きていく上で有能な物をくれ。なんでもいいから」
ポルカーン 「お主、コズミック家の四男じゃったか?うーんと、名前は…」
ミズモ 「嫌だ。言いたくない。言ってしまえば、魔女のあんたに呪われるかもしれないじゃん」
ポルカーン 「なるほど、いい判断じゃ。それなら、もじって“ズミ”で!」
ミズモ 「な、何で名前を知りたがるんだ?」
この監獄を出た暁には、俺を呪い殺すのかもしれない。それしか目的が読めない。だけど、その理由も読めない。
…もしかしたら、正体を知ってしまったからとか!?ありうる。そういうのはお約束みたいなもんだ。
ポルカーン 「今なら契約をするチャンスなんじゃ。私を助けてくれた者とな。もし結べば、私がお主の願いを叶えてあげよう!」
ミズモ 「ミズモ・コズミックといいます。15歳元学生。住所はハイベルンジャー通りで、路上生活をする予定です。好きなものはりんご!スキルはドッペルゲンガーで、相手の肉体と能力をコピーする事ができます。戦闘から、口癖、態度など、あらゆる面において精巧な変身を可能にしていますよ!」
ポルカーン 「わ、わかったわかった!願いを叶えると聞くなり目の色を変えよって…。まだまだ子供じゃのう〜」
ミズモ 「さぁさぁ!早く契約を…」
なんという幸運だ!こんなの最高のスタートじゃあないか!俺は、コズミック家の面々に、少しでもいいから復讐をしたいなー、と考えていたんだ。すぐにチャンスを得られて、なんてラッキー。どんな内容にしようかな…。
ポルカーン 「あのー、言っておくが、願いを叶えるには、もう一つ条件があるのじゃが…」
ミズモ 「なんなりと。どんな困難な事でも、やり抜いて差し上げましょう!」
ポルカーン 「そいつは頼もしい!その条件とは、私の肉体を復活させることなのじゃ」
肉体を復活させる?そんな事、簡単そうだな。そういう系のスキルをドッペルゲンガーでコピーすれば、あっという間にミッションクリアじゃん。
ミズモ 「そんな事、お安い御用ですよ!ササッと終わらせていただきますね!」
ポルカーン 「だけど、私の肉体は、人間の血肉を代償にするのじゃ。つまり、人間を取り込む事となるから、多くの犠牲者が生まれる。しかも、すでに死亡した人間のみじゃ。この条件は、すなわち、人殺しをするという事になる。これでも、契約を結ぶか?」
ミズモ 「…他の方法は無いのか?」
ポルカーン 「無い」
ミズモ 「だったら、そうするしか無いな!よし、契約を結ぼう!」
ポルカーン 「た、ためらいとか無いのか?」
ミズモ 「あぁ、俺の野望のためならば、人だって殺してやる。元々、俺は人間が大嫌いなんだ。俺ばっかりに強く当たるんだ。家族も、学校の先生も、クラスメイトだって…。俺は一行に構わない」
俺は本当に孤独だった。家も、学校も、どこでも虐げられてきた。もう、うんざりなんだ。元々何に関してもうまくいかず、生きる目的すらも失った俺には、人間の価値が、分からない。あいつらが生きている理由は、何なんだ?どうして、俺のように絶望を通り越して無となった者を、皆見捨てるんだ!?こんなの、不公平だ。
ポルカーン 「了解した。お主の覚悟、しかと受け取った。大魔導士ポルカーンより、悪魔に誓う!私と、ミズモ・コズミックは、これより人間の血肉を狩る、悪魔となる!!」
辺りに、漆黒の炎が立ち込めた。ポルカーンに促され、俺は封印の札を剥がす。すると、先程俺が変身した、肉の塊が炎の中から現れた。ポルカーンの霊体が、その心臓と思われる物に手を伸ばす。
ポルカーン 「おお、待ちわびたぞよ!ついにこの時が…」
彼女が心臓を手に取った時、辺りの炎は消え失せた。彼女は振り向き、ニヤリと笑う。
ポルカーン 「ありがとう。さぁ、これから、人間狩りの始まりじゃなぁ!」
ミズモ 「よし、ここを出よう」
ポルカーン 「数十年ぶりの外じゃ。楽しみよのぅ!」
俺たちは、暗い監獄の出口へと足を運んだ。