ミズモ、監獄へ
二階は、個別の部屋になっていた。その中の、1番端の部屋に入る。そのままの足で、ベッドにダイビングした。……あんまりフワフワじゃないなぁ。バンは、それほど身分が高い訳でもないのだろう。いやーそれにしてもこのスキルヤバいわ。本人に簡単になりすませるぞ。しばらくは、この家に住ませていただこう。春の夜の、絶妙な気温の中、俺は寝そべった。窓を開けると、隣の木に、ハトの巣が見えた。
バンの母らしき女性は、俺の帰りが意外だったらしい。それもそうだな。剣士は、いつでも駆けつけられるように、交番で寝泊まりをしている。帰省するのは、珍しい事なのだ。だが、バレている様子では無いみたいだな。これなら、安心して寝られるぜ…。この街の夜景は、賑やかに笑っているようだ。
朝になったから、部屋を出る。一階へと足を運ぶ。リビングには、すでに朝ご飯が用意されていた。ありがたくいただきます。ごく一般の家庭の味だ。俺の家は、元から食事は豪華であったため、少し物足りないかもしれない。
母 「剣士の調子はどうかしら?」
ミズモ 「んー、まずまずかな」
母 「いいじゃない!まだ若いんだから、地道に頑張るのよ」
ミズモ 「あーい」
こ、これは…!なんて幸せな時間なのだろう!こんなにも、母が優しい家庭があるのか!?俺の母なんて、まるで俺の存在を無視しているかのような態度だったのに!幸せと同時に、怒りも湧いてくる。
その時、ドアをノックする音がした。母が出る。外には、剣士が2人、並んでいた。会話が聞こえてくる。
剣士 「お宅の息子さんの、バン・シャティシュが、重症で運ばれて来ました。あと数分遅れていたら、助からなかったでしょう」
母 「えぇっと〜。人違いじゃないですか?バンなら、ここにいますし…」
そうか!もうバンは発見されても不思議じゃあない頃合いだ。俺は大急ぎで階段を駆け上がり、部屋に戻った。ありったけの服を着込む。そして、窓の外を見た。ハトはまだいる!!
パッ!
ハトに変身した俺は、窓から出ていった。このままでは、俺が変身した事が、バレてしまう。そしたら、いよいよ厳しくなるだろう。スキルがバレていたら、普通に不利になる。それ以上に、バンのお母さんと気まずくなっちゃう!気まずい雰囲気は、俺がこの世で1番嫌いな物だ。
バサバサッ!全身に布をまとった変なハトが、空に向かって羽ばたく。このまま、あの場所へ行こう!
町外れの平原には、数十年前に閉鎖された地下監獄がある。閉鎖理由は、食糧難のためだという。そして、死亡した囚人の怨念によって、この平原に魔の果実の大樹があるのだ。ここは、俺の大好きな場所。よく1人で学校を抜け出して休憩をしていたんだ。
この樹になる果実は、美味しかった記憶がある。いつものミズモフォルムに戻る。
晴れた空を見て、今日すべき事を考える。今の俺は、黒のフードを深く被った不審者状態。これなら、正体を知られる事は無いだろう。だが、通報されそうなのもネックだ。よし!ここを、拠点にしよう。相変わらず、人が寄り付かないんだな。地下監獄は、おばけが出るらしいから…。
すること無いし、不気味な地下監獄へと足を踏み入れた。同時に、コウモリが数匹キーキーと鳴いた。想像以上に暗いし…。
女 「おぬし!」
ぎゃあ!!おばけか!?どこからか分からないが、声がしてくる…。
女 「キヒヒヒ。久しぶりの人間じゃのう」
急いで、もと来た道を戻ろうとする。だが、足が動かない。意識が飛びそうな…。攻撃されていたのか…。
バタリ。ミズモはその場に倒れ込んだ。
女 「最近寂しかったからのう。少し、付き合ってもらうぞよ」