疲労は寝て回復せよ
もう、ポルカーンの肉体の事なんてどうでも良くなってきた。現に、彼女は何不自由なく“生きている”じゃないか。人殺しなんて、初めから許されないと分かっていたのに、どうしてこうなったのかなぁ。
帰宅中にこう思った。「1度そう思ってしまったら終わりだ」と分かっていたのに。
ポルカーン 「おいミズモ!ちゃーんとごちそうは盗ってきたのじゃろうな?」
こいつ…!俺の心理を知らないからって、何か察してくれよ!
ミズモ 「こ、今回はだめだったよ。また明日にしよう」
ポルカーン 「むぅぅ。まぁ、今回だけは許してあげよう。明日は、私も買い出しについて行くつもりでおるからな!」
ぷんすか!という表情で、ポルカーンはヒンヤリしている石の床に寝っ転がった。こんな自由人といたら、俺のメンタルが危ういだろう。
「俺はもう、人殺しはしない」
これは、先程から抱いている俺の本音。しかし、契約を結んでしまった今の俺には、どうすることもできない。願いなんて、もう叶えられなくてもいいのにな…。
そんな鬱めいた気持ちも、眠っている間だけは忘れることができた。
聞こえる。誰かが、「ミズモ」と呼ぶ声を…。
すごーく長く眠っていたような感じがして、俺は目覚めた。何かしらの夢を見ていた気がするが、忘れた。
ポルカーン 「やっと起きた」
か細い声が聞こえ、ゆっくりと右に首を向ける。安心しきった美少女の顔がそこにあった。はぁ、と胸を撫で下ろす推定12歳は、微笑みを浮かべて、何変わらぬいつものセリフでどこかに行く。
ポルカーン 「体洗ってきまーすのじゃ」
これだけ聞くと、“河流の中全裸で水浴びをしている金髪美少女は、「きゃっきゃっと」と楽しそうに妖精のような純白の肌を露にして、そして自分の肌を撫でているちょっぴりえっちな眼福過ぎる光景”を思い浮かべる。……訳がないだろ!
残念だが、それは幻想。実際は、亜空間の中で何が起こっているかは分からない。さっぱりした様子で、「今日も頑張ろー!」と出てくる事から予想すると、ぬるま湯を使っている可能性が高い。大魔導士からしたら、それくらいはできて当然だと思うし。はい、この話はここまで!
彼女だって、普通の女の子だ。清潔さを維持するのは、もはや宿命。皆には伝えていなかったが、これは彼女のモーニングルーティーン。つまり、これから1日が始まる…。
…始まる、1日が。え!?
城にある数少ない窓を見ると、外は明るい。これは、俺が数時間寝て今は午後です、という事だと思っていた。しかし、体を洗うというモーニングルーティーンがあるということは…!?
俺は、ほぼ丸1日寝ていたことになる。同時に、自分の体調の変化を気遣う心理が「あんたヤバい状態かもよ?」と伝えてきた。空腹と不安でいっぱいになった俺は、ただただ頭を抱える。
数分が経過し、ポルカーンが戻ってきた。いつもの黒いワンピースを着て、少し濡れた髪を触りながらやってくる少女。そして、俺の現状を見て、笑いながらこう言う。
ポルカーン 「ミズモ、お主ようやく自分が疲れていると気付いたのじゃな!ぷぷぷぷ…!」
両手を口に当て、笑いをこらえようとする彼女。俺は笑えない状況なのに…。イラつくが、事実なのが厄介だ。
ミズモ 「ご、ごめんなポルカーン。お腹空いただろ?きょ、今日こそ食料を採取しようぅぅぅッ!」
無理にでも日常的になろうとしている俺の顔面に、無慈悲な豪速球が飛んでくる。それがりんごだと理解するまでにかかった時間、約15秒。
その後に込み上げる怒りという感情。
ミズモ 「ふざけるな!!少しは俺をいたわってくれよ、このガキぃ!」
そう言って怒りのパワーで立ち上がる俺。しかし、そんな俺のことは怖くないと言わんばかりに、彼女は口を開ける。
ポルカーン 「いたわる事はできないのじゃが、私は有能だという事だけは理解してもらいたいのぅ。ひとーつ!食料はちゃーんと確保したのじゃ!」
そう言って自慢げに亜空間の中を見せる。ぎっしり詰め込まれた食料をみて、「コイツやべぇ」と若干引いたが、少し感心する。
ポルカーン 「ふたーつ!人質の拷問もしたし、ご飯もあげてお世話した事!しかし、あのスライム女は何も口を開かなかったのじゃが…」
うっ、立ちくらみが!
オルティナが震え上がる程のトラウマ拷問が起きたなんて…!しかも、ポルカーンの言動からすると、死んでしまった可能性も捨てきれない。
パッ!
生存確認の変身が成功して、心から安心する。
ポルカーン 「そしてみーっつ!ついに私は、最高の“素材”の発見に成功した!あと街に行ったついでにデトロマの魂を回収しておいた」
!?!?!?
“最高の素材”が結構気になるが、ついでの方がなお気になるじゃないか!